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【識者の眼】「『いのち輝く未来社会のデザイン』にパラメディカルやその養成大学がなすべきことは?」岡本成史

岡本成史 (大阪大学大学院医学系研究科生体病態情報科学講座教授)

登録日: 2025-04-25

最終更新日: 2025-04-23

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本稿を執筆しているその日は、関西万博の開催日である。関西万博といえば、税金の無駄遣い、盛り上がりに欠ける、設営計画の遅れや前売り券の売り上げが目標に達しないなど、問題山積の話が話題だった。しかし、開催初日は多くの来場者で大賑わいだったようで、開催関係者は、ほっと胸をなでおろしていることだろう。

本学の関係者も多く関わっている関西万博のテーマは、「いのち輝く未来社会のデザイン」である。つまり、「いのち」を通じて未来のよき方向性を展示物などを通じて提示するのが狙いである。我々がよき一生を送るためには、肉体的にも精神的にも健康で、個人・社会にとっても活動的・文化的な生活を過ごすことが望まれる。その中での医学の使命は「いのち」の根源を探求し、個人の肉体的・精神的な健康を維持、増進させ、疾患の予防、治療に必要なツールやシステムの開発・改良を進めることである。

明治以降日本は、西洋医学の導入とともに生命に関する科学的根拠に基づいた医療の確立に取り組み、感染症、生活習慣病、がんなどの難治疾患の効果的な治療方法の開発により医療システムの先進化を進め、世界の最たる長寿大国をもたらした。しかし、我々が生涯を通じて健康で活動的な生活を過ごしていくためになすべき問題は多く存在し、これまで医療の発展に尽くしてきた医師や医学研究者だけでは解決できない状況になりつつある。そのため近年、医歯薬連携や医工連携などを中心に、異分野融合による先進的な医療システムの確立をめざした研究が進められている。

だが、医療の一翼を担い、医師とともに医療活動の最前線に立つパラメディカル分野やその養成機関の研究活動があまり目立っていないように思える。パラメディカル養成機関は30年ほど前までほとんどが専修学校であり、医療の発展に必要な「研究」教育がほとんど存在しなかった。今ではパラメディカル養成機関の多くが大学や大学院となり、各分野の問題やニーズに応えるための研究活動を開始している。しかし、そのほとんどは大学院を設置して30年に満たないところであり、注目を集めるところまで研究が成熟していない。

大学の医歯薬学部は、古くから医療人の養成教育を行っていく中で研究の必要性を理解し、長い年月を経て医療人の養成、医療活動と研究を両立させて、今ある先進的な医療を構築してきた。しかし、その形は日進月歩で変化するものであり、「いのち輝く未来社会のデザイン」の創出のためには、取り組むべき新たな医療の創出が必要である。これまでの「治療」が中心であった医療形態は、疾患予防や健康増進、がんなど難治疾患へのサバイバーや高齢者への健康・病状管理や生活活動に必要な各種サポートなどといった「ケア」との両立へと変化しつつある。研究を進めているパラメディカルやその養成大学の教員たちは、研究活動をさらに活発化させることにより研究内容を成熟させ、「ケア」の学問としての保健学の確立と先進的なケアの開発、実践を促進させるとともに、研究マインドを持った次世代のパラメディカル人材育成を進めるべきである。

岡本成史(大阪大学大学院医学系研究科生体病態情報科学講座教授)[パラメディカル][人材育成養成機関

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