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ひさびさの遠征講演/名刺の肩書きをどうするか問題/ご隠居はとても優しい(はず)[なかのとおるの御隠居通信 其の2]

No.5122 (2022年06月25日発行) P.66

仲野 徹 (大阪大学名誉教授)

登録日: 2022-06-22

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隠居生活も2カ月が過ぎ、だいぶペースに慣れてきました。この連載、体裁を変えてではありますが、再開を喜んでくださる方があちこちにおられて嬉しい限りです。そういう声を直接に聞いたのは、あちらとこちらの2人だけですから、「あちこち」というのは極めて正確な記載であります。まったくどうでもええことですが。

ひさびさの遠征講演

6月の初め、4カ月ぶりの遠征講演に出た。群馬県の高崎で開かれた小児神経学会に招かれたのだ。引退前の専門分野とはまったく関係がない学会だけれど、教育講演で「論文の書き方,通し方」という内容のお話をした。

ある学会で10年ほど前に頼まれたのが最初で、(たぶん)好評を博し、以後、何度もお話してきたテーマである。とはいえ、ややキワモノ的なので、どれくらいの聴衆においでいただけるかがいつも心配になる。

けっこう小心なところもあるので、せっかく呼んでもらったのに、10名とかやったら格好がつかんなぁと思いながら赴いた。けれど、50~60名も来ていただけた上に、ネットでお聞きいただいた方も大勢おられたらしい。ありがたいことであったわい。

関係のない学会に出席する楽しみは、まったく知らなかった最近の進歩を学べることにある。今回も、脊髄性筋萎縮症(SMA)のような遺伝性疾患に対する治療法が開発されていることや、それに対応して患者家族への説明をどうすべきかなどのお話を聞いて、ずいぶんと勉強になった。

名刺の肩書きをどうするか問題 

こういう場合、現役時代は出張と呼んでいた。しかし、隠居してからはどうなんやろう。広辞苑で「出張」をひくと「用務のため、臨時にふだんの勤め先以外の所に出向くこと」とある。ふむ、ふだん勤めてないから、もう出張とは言われへんのや。

まぁ、よろし。今回の出張、ではなくて講演旅行は、面識のない先生からご依頼いただいたものだ。その先生の所属される大学でおこなった「論文の……」についてのZoom講演が面白かったので、という理由による。こういうご依頼はとても嬉しい。

会場でお目にかかった時、初対面なので、慣例により名刺を渡すことになる。なしで済ませたいところではあるが、先方からいただきながら、隠居なんで名刺ありませんねん、とかいうのもいまひとつ格好が悪い。なので、新しく作ることにした。

2種類あって、ひとつは、累計170万部も売れた『キッパリ!』(幻冬舎文庫)について読売新聞に書いたのがきっかけになって、ありがたくも著者の上大岡トメさんに描いてもらったもの。もうひとつは、これもプロのイラストレーターさんにお願いした義太夫熱演中の姿である。どちらもかなり気に入っている。自分で言うのもなんですが、なかなかええ感じとちゃいます?

 

少し見にくいが肩書きは堂々と「隠居」である。どや、まいったか。と言いたいところなのだが、いざ使ってみると、えらく便利が悪い。どうしてかというと、何をしていた人かがわからんので、いちいち、以前は大阪大学で云々かんぬんとか言い添えないとあかんからだ。

かといって、大阪大学名誉教授とか、元生命科学研究者とかを書き加えるのもしゃらくさい。悩んでいたけれど、とあることからええことを思いついた。「大阪大名誉教授」を区切って「大阪大名 誉教授」にしてはどうか。大阪大名ってなんのことかさっぱりわからんのが欠点ですけど、なんかおもろいことないですかね。

ご隠居はとても優しい(はず)

人はどんな時に親切になれるかをご存じだろうか? もちろん生得的な性質もあるけれど、時間に余裕があれば他人にも優しく接することができる。これは、いくつもの心理学実験で証明されていることだ。

高崎へはちょっとトリッキーな行き方をした。その切符の購入、みどりの窓口のお兄さんはなかなか理解できず、後ろにいたベテラン駅員さんに尋ねたりしてずいぶんと時間がかかった。以前の私ならば「はよせんかい、うりゃ」とか思ったに違いない。

が、いまや隠居なので、時間は有り余るほどある。「ええよええよ、難しい注文をしたおっちゃんが悪かったね」と、口には出さねど、そう思いやる程度の優しさを持つことができた。我ながらえらいやん。

というようなこの頃であります。隠居にしては忙しすぎるような気がしないでもありませんが、まぁ、それはしゃぁないですな。隠れて暮らすから隠居じゃなくて、穏やかに過ごすから穏居かなぁとか思っとります。そんな言葉ないけど、性格も優しくなってきたことやし。って、自己肯定感は相変わらずですわ。

仲野 徹 Nakano Toru
大阪市旭区生まれ。1981年阪大卒。2022年4月より阪大名誉教授。趣味は読書、僻地旅行、義太夫語り。『仲野教授の笑う門には病なし!』(ミシマ社)大好評発売中!

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