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【識者の眼】「カルタヘナ法がウイルスベクターを使った医薬品の開発を阻害してるって、本当?(その1)カルタヘナ法とはどんなもの」藤原康弘

No.5131 (2022年08月27日発行) P.63

藤原康弘 (独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長)

登録日: 2022-08-05

最終更新日: 2022-08-05

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今月から「カルタヘナ法がわが国における遺伝子治療の臨床研究発展の妨げになっている」という都市伝説について、考えてみたい。

世界196カ国は生物の多様性の維持を目的とした「生物の多様性に関する条約」を締結している(日本は1992年6月署名。先進国では米国のみが署名していない:国連の2030年を年限とする17の国際目標SDGsにおいても海洋資源、陸上生態系の保護がそれぞれ目標として挙げられている)。

この条約に基づいた国際合意である「生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書」(カルタヘナ議定書:日本は2003年11月締結、翌年2月に発効)では、バイオテクノロジーにより改変された生物(遺伝子組換え生物、living modified organism:LMO)が生物の多様性の保全および持続可能な利用に及ぼす可能性のある悪影響を防止するための措置を各国に求めている。カルタヘナ議定書の国内担保法として生まれたのが「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律」(カルタヘナ法:2003年6月公布、2004年2月施行)である。カルタヘナ法においては、ウイルスを遺伝子操作して作成されるウイルスベクターを用いた医薬品等も対象となっている。

カルタヘナ議定書の理念は、「遺伝子組換え生物が他国に迷惑をかけないように各国が責任を持って管理する」ことを中心としており、すべての遺伝子組換え生物を一律のルールの下で管理することを求める性質のものではなかった。しかし、カルタヘナ議定書に日本が署名した時点では、各省庁(厚生労働省、文部科学省、経済産業省、農林水産省)が使用目的に応じて遺伝子組換え生物の使用ガイドラインを出しているのみであったため、組換え生物の取扱いに関する法整備が行われ、ガイドラインを統合したカルタヘナ法が制定された。そして、運用窓口は使用目的に応じて所掌省庁(臨床研究以外の研究なら文部科学省、農作物なら農林水産省、臨床研究や医薬品の開発・使用なら厚生労働省など)が行うことになった。

以降、4回に分けて、わが国におけるカルタヘナ法の臨床研究における運用実態を紹介・考察する。

■本シリーズ
(その1)カルタヘナ法とはどんなもの
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20165
(その2)第一種使用(開放系での使用)と第二種使用(閉鎖系での使用)とは
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20166
(その3)審査はどこで行っている
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20167
(その4)米国での開発の方が楽なんてことはありません
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20168
(その5)厚生労働省・PMDAの行ってきた運用改善
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=20169

藤原康弘(独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)理事長)[生物の多様性に関する条約][遺伝子組換え生物

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