1 子どもの発達障害において,医療機関に求められる役割
(1)子どもの発達障害とは
発達障害の概念が一般的になり,一般外来においても質問や相談を受けることはめずらしくなくなった。「障害」という言葉には賛否があるが,少なくとも脳機能の発達に偏りや多数派と異なる特徴を備え,その結果,日常生活や社会適応に困難さを抱え,理解や支援が必要であることについては,異論がないようである。
取り巻く社会の変化もあり,昔であれば許容されていた特性が,現代社会においては適応の困難さにつながりやすくなっていることもある。また,発達障害の知識が社会全般に拡がってきていること,見きわめのためのスキルの向上もあり,個々の特性を見据えた上での医療的・福祉的支援,教育現場での配慮が求められてきている。さらに,個人の特性に加え,養育環境の変化もあり,発達障害に類似する状態となっている子どもの存在も認識されてきている。小児科,また小児に接する診療科においては,治療対象となる疾患のみならず,子育て支援を含めた助言を求められることがしばしばある。
(2)発達障害の特性
食事や睡眠をはじめとする身辺自立の面,発達のペース,また「言うことをきかない」など自我の芽生えやかんしゃくの多さ,不安や人見知りの強さ,落ち着きのなさ,注意の問題や学習面など,保護者や周囲が気になる特性については,成長とともに変化していくことも少なくない。
また,子ども自身が精神的にも疲弊する,身体症状が出現することもある。さらに,本人が持つ生活や身辺自立的な特徴で苦労することも少なくない。
なお,現在のところ診断されるほどではない,「グレーゾーン」と言われる子どもたちにおいても,発達障害児同様の悩みを抱えることがある。
幼少時期から,より適切な対応がなされてきているケースにおいては,その後の生活の中で周囲に適応しやすくなるため,保護者や周囲の早期からの理解が必要である。そのためには,様々な困難さを抱える本人と,育てにくさを感じる保護者の関係性も視野に入れた助言が望ましいと考えられる。
(3)確定診断
確定診断については,発達歴や発達検査・知能検査,多くの場面における患者の行動評価,診察場面においての行動観察などが必要であり,人的・時間的な意味においてもプライマリケアの場面では困難さがある。しかし,発達特性についての説明や養育環境にあわせた対応についての助言が,保護者をはじめ周囲の人の理解を促す。また,現時点での困り感に対しての具体的な助言や,ケースによっては薬物療法が,社会適応や生活のしやすさにつながる。さらに,診断されている子どもへの助言・指導,発達障害診療医と連携しながらの継続的な薬物療法は,患者の身近にいるプライマリケアの先生方に大いに担って頂ける分野と言える。
一概に“発達障害”と言っても,多くの診断名がある。本稿では,主となる発達障害の概要を中心に,診察場面での工夫や保護者への助言について説明する。
2 主な発達障害の概要
(1)自閉スペクトラム症(ASD)
対人的相互交流の苦手さ,時に言語的コミュニケーションの遅れ,見通しのつかない状況や変化が苦手,同じであることへの安心感,感覚刺激に対して過敏または鈍感,希求,などの特性がある。
(2)注意欠如・多動症(ADHD)
注意持続の苦手さや集中のムラがあり,周囲の刺激に注意を引かれやすく,落ち着かない行動になりがちである。
タイプによって,また,しばしば発達段階に応じて,行動の様子は異なる。
(3)限局性学習症(SLD)
知的水準と比較して,限られた分野で著しい苦手さがある。学習面においては,しばしば困難さや意欲の低下につながりかねないことから,様々な支援の方法が研究されている。
(4)コミュニケーション症群
言語発達の遅れとしての言語症,構音の問題や吃音など,言語的コミュニケーションの上で支障をきたしうる特性全般が含まれる。