産後うつ病については1950年代より報告があり,1980年代に疾患概念が確立され,罹患率は約10%とされる。ホルモンバランスの乱れや育児のストレス・不安などにより,気分の落ち込みや喜びの喪失,自己評価の低下,赤ちゃんへの愛情の欠如などを訴える。産後3~4カ月以内に発症することが多い。
鑑別を要するものにマタニティーブルーズがある。マタニティーブルーズの罹患率は約30%で,産後~2週間に女性ホルモンの急激な低下により,一過性に涙もろさ,焦燥感,抑うつ気分,集中力の欠如などが起こる。しかし,休息と周囲の見守りや支援で自然に軽快することが多い。
理由もない流涙,気分不安定,楽しみの欠如,不眠,食欲低下,行動の鈍化,子どもを傷つけたくなる気持ち,母親失格思考,ネガティブ思考,罪悪感,自殺企図など。
精神疾患既往,アルコール・薬物乱用歴,喫煙,流死産経験,未婚・未入籍,望まない妊娠,若年妊婦,対人関係不良妊娠,低い教育歴,家庭内暴力,学童期の社会適応困難,思春期の抑うつ,アタッチメントの障害,無医療保険,経済的困窮,社会・家庭内サポート不足,強い不安,妊娠期のライフイベント(離婚,死別,妊婦・家族の重篤な疾患発症など),マタニティーブルーズなど1)。また,妊婦の10~15%は妊娠中からうつ傾向があり,妊娠期からの要支援妊婦の抽出が重要である。
全妊産婦を対象に,心理社会的状態を共通の尺度で評価する周産期メンタルヘルススクリーニングを行う。
①要支援チェックリスト:上記リスク要因など育児困難を把握する質問やWhooleyの2項目質問票での評価
②エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS):点数のみでなく項目に注目して評価
③赤ちゃんへの気持ち質問票:記載している際の様子,態度などにも注目
女性の就業率上昇,晩婚化・晩産化,核家族化などの家族形態・ライフスタイルの変化に伴って,妊産婦にとって孤立感・心身の負担・仕事と育児の両立困難などのため,現在は子どもを産みにくく,育てにくい社会でもある。今後,妊産婦のうつ病は増えていく可能性があり,産褥期のみならず,妊娠期から妊婦の背景や養育に向けた気持ちを把握し,要支援リスクの高い妊婦を抽出することが大切である。そこで,うつ傾向のある妊産婦を「通常」の場合,「サポート不足」である場合,「重症例」にわけて,産後うつ病の抽出法や管理・指導法等について述べる。
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