医師・医療従事者向け動画配信サービス「Web医事新報チャンネル」(www.jmedj.co.jp/movie/)では10月4日より、質疑応答【動画版】SPECIAL「ヒラハタ院長の法律相談─コロナ後遺症診療に法的リスクはあるか」(全3回)を配信しています。新型コロナ後遺症診療の最前線に立つヒラハタクリニックの平畑光一院長が、医療における法的リスクの問題に詳しい川㟢翔弁護士に直接質問・相談した本動画は、医療機関が後遺症診療を安心して進める上で役立つ情報が満載です。ここでは、本動画後半の質疑応答の模様をダイジェストでお届けします。(本動画は9月1日に収録しました)
平畑 (コロナ後遺症の)診断書を書くことで何か新たに責任が生じるのではないかと心配している先生がいます。そういうリスクはあるのでしょうか?
川﨑 一般論になりますが、診断書の記載に関してはあまり大きなリスクはありません。虚偽の内容を書くと「虚偽診断書等作成罪」という犯罪が成立しますが、そのようなことをするドクターはいないでしょうから。
平畑 もう一つ心配されているのは、コロナ後遺症にせよワクチンの長期副反応にせよ、自覚症状のみというケースが多くある。他覚的な所見が取れず、検査でも異常が出ないが、ただ本人はつらそうだというとき、自覚症状のみで書くことに対してどうしても抵抗感があるという先生がいらっしゃる。この点については、もし患者さんが虚偽のことを言っていた場合、それを見抜けなかった医者に責任があるわけではなく、患者側に責任があるという理解でいいでしょうか。
川﨑 その通りですね。自覚症状の場合、他覚所見と結びつくものはまだ判断のしようがあるけれど、純粋な自覚症状だけの場合は裏の取りようがない。かといって、一概に「全部うそです」というわけにはいかない。ドクター自身が虚偽を書いたということでなければ、そこで責任を問われることはまずないと思います。
平畑 これは私自身にもあることですが、いったん診断書に「コロナ後遺症」と書いたとして、その後検査で違う病気だったとわかった場合、法的責任が生じることはありますか?
川﨑 診断書を作成した時期において多くのドクターがそう判断するかどうかという、通常の医療事故と同じような過失の判断の枠組みになるかと思います。「どう考えてもこういう診断はつかないよね」という判断であれば、「記載として誤っている」と言われることはありますが、そうでない限りは、それによって責任が生じるというケースは極めて少ないと思います。
平畑 患者さんは1日1日生きるのに必死で、どうしても生活費を手に入れなければ家族が困ってしまうという状況だったりする。まずはいったん(傷病手当金申請等のための)診断書を書いて、その後精査を進めていくということが必要になるケースがあると思います。精査が全部終わってからでなければ書けないとなると、患者さんにとっては非常に厳しい状況になりますので、先生のご回答はありがたい。
川﨑 私の顧問先は医療機関がほとんどですので、診断書やカルテの記載についてご相談をいただくことがよくあります。「後で病名が違うとわかったんだけど、カルテの記載をどうしたらいいか」といったところで悩まれている医療機関が多いのですが、別に悪意を持ってやったことでなければ、ちゃんと患者さんを診て診断書なりカルテに落とし込んだだけということですので、「結果責任を問われるということではないですよ」という話をよくします。
我々弁護士は「後出しジャンケン」的なところがあります。裁判は必ず後から見るので、裁判とか法律に対して恐ろしさを感じることがあると思いますが、法律は自然科学に比べると「結果がすべて」という学問ではないという部分が強いのです。
(法律の世界では)その時に何をしたのか、何をその時すべきなのにしなかったかという判断をする。当時の状況に立ち返って、理想とされる行動ができたかどうかをみます。「結果がだめだったから」ということだけで判断しているわけではないということをわかっていただけたら、もう少し柔軟な動きができるのではないかと思っています。講演などでも「結果責任を問われる世界じゃないですよ」という話をしています。
平畑 コロナ後遺症やワクチンの長期副反応は、ガイドラインでどういう治療をしたらいいか、こういうエビデンスがあるということがまだまだそろっていない。患者さんはおそらく100万人以上いて、これからもどんどん増え続けるという状況の中で、診療所が「私は怖いから手を出さない」と言って一切診ないというのも社会的に問題があると考えています。
まだしっかりとした規定(=診断基準等)がないという状態で診るのは怖いという先生もいらっしゃると思いますが、その先生なりに頑張って診ていれば、大きな問題は起きないという理解でいいでしょうか。
川﨑 何か問題になったときに、裁判所も「少なくとも善意でやっていますよね」という見方をします。明らかに注意すべきことを注意していないということであれば別ですが、医師が明らかにマイナスの行動をするというケースはほぼないと思います。
患者さんのために何かしてあげたことで責任を問われる可能性は低いと考えていいと思います。
平畑 当院は(コロナ後遺症患者を)4000人以上診ていますが、最初は1人から始まっている。4000人以上診た人と同じ治療ができなかったらアウトということでは当然ないし、また私が全国の100万人の患者を診られるかというと当然診ることはできない。
地域で患者さんに一番近い信頼されている先生方が、情報収集をした上でチャレンジして、できることを1つ1つやっていくことが患者さんのためにもなるし、社会のためにもなる。そこに基本的には法的なリスクはないと考えていいということですね。
川﨑 そうですね。