監修: | 田上佑輔(医療法人社団やまと 理事長) |
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著: | 久嶋静磨(医療法人社団やまとアシスタントプロジェクト) |
著: | 遠藤真美(医療法人社団やまとアシスタントプロジェクト) |
協力: | 朝岡宏和(株式会社地域医療パートナーズ) |
判型: | A5判 |
頁数: | 160頁 |
装丁: | カラー |
発行日: | 2025年06月14日 |
ISBN: | 978-4-7849-0176-0 |
版数: | 初版 |
付録: | 無料の電子版が付属(巻末のシリアルコードを登録すると、本書の全ページを閲覧できます) |
2040年には170万人を超えると予測されている在宅医療患者。
在宅診療はいま、空前の開業ブームです。しかし、地域によって医療者が偏在し、また日本全体の生産年齢人口が減っていくなか、その持続可能性には大きな懸念があります。
そんな問題意識から「やまと」が10年かけて培ってきたのが「診療アシスタント」という新しい人材の活用戦略です。医療資格がなくてもできる仕事を積極的に「診療アシスタント」にタスクシフトすることで、医師・看護師は自分の専門性に注力でき、より生産性の高い仕事が可能となります。そして、単に診療の効率を上げるだけでなく、診療の質を上げ、量を改善し、診療所や地域を元気にする——そんな可能性に満ち溢れた「診療アシスタント」という新しい存在のすべてを、「やまと」が惜しげなく公開したのが本書です。この「診療アシスタント」というまさに”目から鱗”の人材戦略を、貴院でも取り入れてみませんか? 診療所経営や地域医療政策に携わる方は必読の一冊です。
本書はこんな人におすすめ
▷医療人材採用に苦戦している
▷医療人材育成に悩んでいる
▷診療所経営の効率化を図りたい
▷地方の地域医療の現場に関心がある
第1章 診療アシスタントが求められる背景
1 増大する在宅医療ニーズ
2 医師・看護師などの医療者の不足
3 地方で働く医師を増やすには?
第2章 診療アシスタントが担う役割
1 診療アシスタントの業務範囲
2 診療アシスタントの具体的な実務
コラム その他運営事務のシェアードサービス化
第3章 診療アシスタントのバックグラウンドと育成
1 人材のバックグラウンド
2 人材の育成
第4章 診療アシスタントへの医師からの評価
1 診療アシスタントのサポート効果の実感度合い
2 診療アシスタントのサポートのうち,特にありがたみを感じていること
3 他医療機関に診療アシスタントの導入を勧めたいか
4 診療アシスタントに関するフリーコメント
第5章 診療アシスタントの経営効果
1 人材を強みに集中させ,組織生産性を高める
2 患者さん目線を活かしたサービス向上/人材強化
第6章 診療アシスタントのキャリアパス・未来
1 診療アシスタントのキャリアパスの現状と開発の必要性
2 診療アシスタントのキャリアパスの展望
第7章 診療アシスタントを生んだ「やまと」
1 やまと地域医療グループの概要
2 地方と都市の医師循環モデル(やまとプロジェクト)
私たち「やまと地域医療グループ」は,医療法人社団やまとおよび医療法人やまとコールメディカルクリニック福岡により,計12の在宅療養支援診療所を運営しています。その大きな特色は,その活動拠点の大半が医師不足地域・医師偏在地域であることと,医師・看護師・「診療アシスタント」の3人一組でのチーム医療であることです。
診療アシスタントは医師や看護師のような医療資格者ではなく,医療行為は行いません。医師とともに患者さんの元へ同行し診療をサポートするとともに,関係者とコミュニケーションを取りながら日々の診療の前段取りや調整,連携事務を進めることが役割です。
地方の医師不足・医師偏在はかねてより大きな社会課題とされてきました。これを解消するために,地方へ移住する医師へインセンティブをつけたり,医学部に地域枠を設けるなど様々な工夫がされています。しかし,今のところ,残念ながら期待に見合う成果はみられていないようです。
一般に,医師が足りない地方ほど医師1人ひとりの仕事の幅は広くなります。日々の診療はもちろん,地域の医療介護の発展のため,医療機関同士の連携の推進や行政へのアドバイスなど,+αの活躍を期待されることも多くなるでしょう。個人の裁量が大きいというやりがいの一方で,個人の負担が大きく(孤軍奮闘),持続性には懸念があります。
また,一度関わると離れることが難しく,都市部での研鑽・研修によるキャリア形成などを諦めざるをえない(滅私奉公)ということから地方での勤務に二の足を踏む医師も少なくありません。まして,地域に点在する患家間を医師が移動し,365日24時間,院外の多職種とも連携しながら継続的に医療提供を行う在宅医療に取り組もうとすれば,より一層の困難を伴います。
そのような環境下で,私たちは地方で働く医師を増やすには採用や報酬を強化するだけでは難しいと考えています。より医師の働き方や生き方に踏み込む必要があると考え,解決できる仕組みの構築に取り組んできました。そのひとつがこの「診療アシスタント」という新しい職種の確立です。
「医師,看護師に加えて,余分な人材を雇う余裕はない」,ましてや「医療資格も持たない“アシスタント”なんて」と思われるかもしれません。しかし,少なくとも「やまと」にとって,診療アシスタントは医療者のリソースが限られる地域でも数多くの診療を成り立たせる重要なインフラになっています。
本書では“アシスタント”どころか“ブースター”として「やまと」の推進力となっている「診療アシスタント」について,必要とされる背景から具体的な業務内容・育成方法まで幅広くご紹介します。きっと「なるほど」と思っていただける点が,少なくないのではないかと思います。
言葉を選ばなければ, 在宅医療はいま空前の「ブーム」となっています。しかしながら,現実には人材の確保,現場の疲弊,利用者や多職種とのすれ違い,診療報酬制度に左右される経営環境など,在宅医療に従事している皆さんが置かれている環境は決して余裕のあるものではないと思います。本書の内容が読者の皆さんの抱える課題解決の糸口のひとつになれば幸いです。また,本書をきっかけに新しい職種・職業として「診療アシスタント」の認知や理解が進み,個々の診療所の経営改善にとどまらず,地方の雇用創出や地方の医師不足・偏在の解消の一助となるならば,こんなにうれしいことはありません。
2025年5月
医療法人社団やまと 理事長
田上佑輔