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【識者の眼】「メンタルヘルスの現場から見た労働市場:人材派遣業営業担当者の世界」岩﨑康孝

No.5142 (2022年11月12日発行) P.62

岩﨑康孝 (四谷いわさきクリニック院長)

登録日: 2022-10-27

最終更新日: 2022-10-27

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人材派遣を含む「非正規職員問題」は、しばしばメディアに上ります。非正規の職員は増加し、雇用者全体に占める割合は、1989年の19%から2021年に37%となりました。ただし、2015年から非正規職員の割合はほぼ一定です。内訳は、パート・アルバイト70%、契約13%、派遣7%、嘱託5%です※1

派遣業界では、この「7%」が対象となります。実数は154万人※1。業界規模は、売上高が約6兆円、派遣業社数が約4万社※2。高齢者と女性就労者の増加のため、就労者全体は少し増えていますが、売上高はほぼ一定の成熟市場であり、厳しい競争があります。

派遣社員をなさっている患者さんから伺う話は、「とてもいい営業さんに当たった」「すぐに決まった」という良い話から、「聞いていた業務とは異なる」「マニュアルがない・不足」「条件が合わない案件ばかりが紹介される」「営業担当から連絡が無い」等の悪い話まで、大きなばらつきがあると思っていました。

営業担当の方からすると、「うまくいく人」と「うまくいかない人」は明確に分かれており、後者に手がかかることが悩みのようです。「うまくいかない」とは、「派遣先から苦情」「すぐに辞める」「職場への文句が多い」「なかなか決めない」という方から、そもそも「勤務する水準に達していない」と思える方までいるそうです。

一方で、上司からは被派遣者をつなぎ止めるよう指示されます。派遣先と被派遣者の一般的な調整以外に、派遣できる人員確保のため、社会的訓練が不十分な被派遣者に対し、面接のときの応答、会社での振舞い、技能習得のための指導が必要となります。そのような場合や苦情対応には電話等のリアルタイムの連絡を要するため、被派遣者の就業時間後となり、営業担当者の就業時間帯とずれる、または、時間外勤務が多くなります。

この仕事は比較的難易度が高く、営業担当の方には定型的な訓練以外に、本来は一定の経験と熟練が必要だと思います。ただし、お目にかかる患者さん(営業担当)の中には比較的若い方がおり、ギャップを感じます。

実際に、派遣業で営業担当の方が転職する場合、特に若年の方は過度の対人ストレスにより疲弊して退職することが多いです。同業他社へ転職される方は少なく、会社の内勤や異業種への転職が多い実感があります。

次回は「スタートアップの世界」についてお伝えします。


※1 総務省統計局:労働力調査(詳細集計)令和4年(2022年)4〜6月期平均.

※2 一般社団法人協会:派遣の現状.

岩﨑康孝(四谷いわさきクリニック院長)[メンタルヘルス][労働市場]

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