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【識者の眼】「インフル・ワクチンの正しい運用を」岩田健太郎

No.5142 (2022年11月12日発行) P.57

岩田健太郎 (神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)

登録日: 2022-10-28

最終更新日: 2022-10-28

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長年この仕事をしていて「日本政府・厚労省のここがイヤだ」というものがある。「間違いだと分かっているのに、直らない、直さない」ところである。ここはマジでムカつく。

典型例がインフルエンザ・ワクチンだ。

インフルエンザ・ワクチンは予防接種法におけるB類疾病に分類され、高齢者や高年齢の基礎疾患を持つ人にしか公費が適用されない。あとは自治体の助成があるのみだが、本来ならインフルエンザ・ワクチンは「生後6カ月以上の、禁忌がない限りすべての人に推奨されるべき」ワクチンである。過去の質の低い研究に引きずられて、何十年も見解がアップデートされていないのが最大の問題だ。

予防接種の大多数は皮下注射ではなく、筋肉内注射が推奨される。国際社会の「常識」だ。しかし、インフル・ワクチンはいまだに皮下注射である。解熱剤など「関係ない薬」の筋注がもたらした副作用が拡大解釈されて今に至るのであるが、インフル・ワクチンは皮下注よりも筋注のほうが副作用が少ないことはデータで明示されている。「分かっているのに直らない、直さない」厚労省の典型的な悪癖である。多くの人が不要な皮下注のために局所の痛みや腫脹に(無意味に)苦しんでいる。

小児のスケジュールも間違っている。本来、インフル・ワクチンは「生まれてはじめて打つときは4週間以上空けて2回接種、その後は毎年、年1回」の接種が基本である。が、日本では小児は2回接種がデフォルトになっている。親は何度も外来に行かねばならず、子どもは毎年2回も注射されて実にかわいそうだ。

コロナとインフルのワクチンの同時接種を認めたのは厚労省にしてはナイスな判断であった。が、そのあとがいけない。他のワクチンとの同時接種も認めるべきだったし、接種間隔は特に2週間空けなくてもよい、という現代の考え方も取り入れるべきだった。

問診票もよくない。「家族に先天性免疫不全症がいるか」といった無意味な質問が多く、それがイエスでも現場はどうしろというのだ。厚労省の「シンプルにすると死に至る病」が現場を面倒にしている。「働き方改革」最大の敵は厚生「労働」省と断じてもいいくらいだ。

間違っていたら、直しなさい。親が子どもに言うようなことができない厚労省。まずは間違いを認めること。認めたら直すこと。難しいことはいいから、シンプルなことをシンプルに改善してほしい。

岩田健太郎(神戸大学医学研究科感染治療学分野教授)[厚生労働省][予防接種行政]

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