No.4752 (2015年05月23日発行) P.73
仲野 徹 (大阪大学病理学教授)
登録日: 2016-09-08
最終更新日: 2017-02-20
『アルジャーノンに花束を』がドラマ化されている。ご存じの方も多いだろうが、原作は、知的障害を持つ主人公チャーリイが脳手術を受けて天才的な知能を持つに至る、しかしその後…というお話だ。
作者ダニエル・キイスの「多重人格もの」がブームになった頃に読んだので、もう30年以上も前になるだろうか。当時は、まったくのSF、とてもあり得ない話だという感じであった。しかし、時は進み、記憶を人為的に操作することが論理的には可能になってきているらしい。
最近、記憶力の低下が著しい。若い頃から、記憶力がよかったわけではない。とりわけ、仕事に関係することになると、なかなか覚えられない。その割には、しょうもないことをよく覚えているので、世間からは記憶力がいいと思われたりする。まったく迷惑な誤解である。
しかし、記憶力がよければいいというものではない。映画『レインマン』でダスティン・ホフマンが演じたサヴァン症候群の患者が好例である。すごい記憶力があるが、同時に知的障害がある。理由はさだかではないが、記憶力を抑制することが普通に生きていくには必要ということなのだろう。
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