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新鮮な独学 /いざ種蒔き /いざ,収穫 [なかのとおるの御隠居通信 其の7]

No.5144 (2022年11月26日発行) P.64

仲野 徹 (大阪大学名誉教授)

登録日: 2022-11-23

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「仲野家農園」、正味で20坪ほどでありますが、諸般の事情から妻名義の土地なので、小作農といったところです。なにひとつ知識がないところからのスタートでしたが、9月の中旬には種まきを始め、早くも作物が収穫できるように。ということで、今回は感動の(?)レポートであります。

新鮮な独学 

野菜はおろか、花の類いも育てた経験がほとんどない。たぶん、小学校時代に植えた朝顔とかヘチマ以来である。知識は完璧にゼロ。そんなので菜園を始めようというのだから、いささか大胆ではある。はて、どうするか。研究と同じにちがいあるまい。ということで、とりあえず文献を読み始めた。

母親が昔に買い込んだ「野菜の育て方」みたいな本が4~5冊あったので、それを読みこむことからスタート。新しいものを学ぶ時のコツは、似たような本を複数冊読むことだ。そうすると、それらの本に共通している内容とそうでない内容が浮かび上がってくる。当然ながら、大事なのは前者で、後者はとりあえずうっちゃっておいていい。でないと、ややこしすぎる。

まずは、まったく何も知らないということがよくわかった。使われている言葉すらわからないのが結構ある。石灰くらいは大丈夫だけれど、堆肥となったらわからない。普通の肥料とはなにがちがうんや。他にも、中耕とか土寄せとか、なんのこっちゃ。

種を買ってパッパッと地面に蒔いたらいいのだとばかり思っていたが、甘かった。土作りをせねばならないということも驚きだった。本の帯を依頼されて『大地の五億年』(ヤマケイ文庫)を読んだところだったので、日本の土は酸性であることは知っていた。しかし、多くの野菜は酸性土壌ではうまく育たないので、pH調節のために石灰を施さないとあかんとは知らなんだ。石灰の後1週間ほどおいて、「堆肥」と肥料をすき込む。さらに1週間待って、ようやく準備完了である。

堆肥というのは、草などを腐らせて─というより、有用なものにするのだから「発酵させて」が正確だろうか─作った肥料の一種である。自分でも作れるが、とても間に合わないので、ホームセンターで買うことにした。1平米あたり4㎏も撒けと指示してあるので、20坪だと250㎏以上になる。土作りは鋤や鍬での作業ではとても無理で、電動耕運機が大活躍してくれた。

いざ種蒔き

総論の勉強には本がよかったけれど、いざ何を蒔くか、どう買うかなどの各論となると、抜群に頼りになったのは種子メーカーのHPだった。じつによくできている。何月にはこれを蒔きましょうとか教えてくれるし、ほかにも、この作物は初心者向けとか書いてある。いやぁ、便利。もちろんそこから購入できるようになっている。

これまた知らなかったのだが、農地に直に種を蒔くものと、まずは苗床に蒔いて、ある程度育ってから畑に移植するものがある。なんらかの理屈があるのか、あるいは経験に基づいたものなのかは知らないが、言われるがままにするしかない。

まったくの素人なので、なにがどの程度育ってくれるのかも皆目わからない。なので、ちょっと多すぎるかと思いながら20種類もの種にチャレンジした。それぞれの種の発芽がむちゃくちゃにうれしかった。生えて当然なのはわかっていても、生き物ってすごいと素直に感動した。長年生命科学者やったのに、生命を感じることがほとんどなかったのを深く反省する次第である。なんかちょっと悲しい。どこか間違えた半生やったんかもしらん。

いざ、収穫

唐突に思われそうだが、はや収穫へと話は進む。最初に食したのは間引き菜である。ほうれん草、チンゲンサイ、ルッコラといった葉物も、大根、かぶといった根物も、とりあえずはたくさんの種を蒔いて、生えてきた苗を間引きする。種類にもよるが、これは種蒔き後おおよそ2週間くらいだ。

たいした量が採れるわけではない。でも、サラダにしたらじつに美味しかった。これも当たり前ながら、ほうれん草はほうれん草の、ルッコラはルッコラの味がするのが面白かった。いやぁ、新鮮な野菜はやっぱり美味しいわぁって言うたら、地主さまである妻から「自分で作ったからそう思うだけちゃう?」という、なんとも心ない言葉を投げかけられた。確かにそうかもしらんけど、愛想なさすぎちゃうん。ちゃんと献上してるのに。

根物はまだだが、葉物はどんどん収穫できるようになってきている。というよりも、採れすぎて困っているような状態だ。毎朝、ルッコラやレタスなどの葉っぱを大量に食さねばならず、気分はすっかりニワトリである。チンゲンサイなど、味噌汁、お鍋、炒め物にしてどれだけ食べたことか。

それやったらなんで畑をするのやと言われそうですけど、もともとあまり野菜が好きちゃいましてん。でも、採れたての野菜は文句なしに美味。畑で体を動かし、野菜をたくさん食べるようになって健康増進できたら一石二鳥、言うことありませんわ。

仲野 徹 Nakano Toru
大阪市旭区生まれ。1981年阪大卒。2022年4月より阪大名誉教授。趣味は読書、僻地旅行、義太夫語り。『仲野教授の笑う門には病なし!』(ミシマ社)大好評発売中!

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