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【識者の眼】「高齢者の焦燥が強い病態」上田 諭

No.5148 (2022年12月24日発行) P.58

上田 諭 (東京さつきホスピタル)

登録日: 2022-12-02

最終更新日: 2022-12-02

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うつ病といえば、元気なく動かず閉じこもるという印象が強いが、一方で落ち着きがなく、そわそわと動き回り、誰となく苦痛を訴え続けるという病態がある。うつ病の中で焦燥が強い型と呼ばれ、高齢者に多い。うつ状態は本人にとってつらく苦しいが、とりわけこの焦燥型は苦悩が強い。その苦しさから、多くの人が一度は希死念慮を抱く。

看護・介護には困難が伴う。つらいといってそわそわし、落ち着きなく動き回る人に、一時的にでも安楽を与えられる看護・介護の方法はなかなか見出せない。治療的にも、通常のうつ病のように抗うつ薬だけで効果があることは非常に少ない。うつ病だからと抗うつ薬に頼って漫然と治療することは、患者の苦悩をいつまでも長引かせることになってしまう。抗うつ薬ではなく、焦燥を鎮静化する非定型抗精神病薬や気分安定薬の投与を積極的に考える必要がある。

それでも改善を得られない場合は、電気けいれん療法が著効を示すことが多い。麻酔薬と筋弛緩薬を用い、2〜8秒間、パルス矩形波を頭部に通電する。従来、両側前頭部に電極を付ける方法が主であったが、最近は右半球のみに電極を付けて通電する右片側性電極配置が広がっている。言語中枢のない劣位半球のみに通電することにより、認知機能障害の発生が減少するからである。

アルツハイマー型認知症でも強い焦燥を示す例がある。うろうろと歩き回り、物をいじり、出口のドアノブを開けようとがたがたとする、という行動は、通常重度の人の徘徊にみられるが、それが徘徊ではなく焦燥からの行動のときがある。焦燥による行動の場合は、その人自身が「落ち着かない」「じっとしていられずつらい」という感覚を持っている。それを自分で表現できない人もおり、表情や態度をよく見ることで多くは判別できる。

治療的対応では、徘徊なら安全を保てる限り、見守るだけでよいが、焦燥であれば、薬物療法を行って本人の苦痛を軽減することが重要な治療になる。

上田 諭(東京さつきホスピタル)[精神科治療]

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