政府が医療DX推進を後押ししていることを受け、院内ICTに関する多種多様なサービスが登場している。コロナ禍で医療提供のあり方や患者の受療行動が大きく変容し、デジタル化が遅れていたクリニックでもICTの導入が加速している。連載第36回は、アプリを通じて医療機関と患者がリアルタイムでつながるコミュニケーションツールを活用し、クリニックにおける医療提供の質と患者の利便性向上を実現した事例を紹介する。
広島市にある安佐南内科リウマチ科クリニックは、院長の舟木将雅さんが「人と人との対話を大切に、難病に対して治す治療と支える医療を実践する」を理念に掲げ、2019年10月に開業した。
舟木さんは日本リウマチ学会と日本呼吸器学会の専門医資格を持つ。県内の総合病院で内科、リウマチ膠原病内科、呼吸器内科などを担当した経験を生かし、地元安佐南区にそれまでなかった「リウマチ内科」をクリニックに設置。全身に症状が出やすいリウマチ膠原病患者の診療や、原因不明の熱・症状が多彩にあり、どこを受診したらよいか分からない患者の受け皿となる総合内科としての診療も行っている。
同院の特徴は、開業時から地域のかかりつけ医としての機能を発揮するために、オンライン診療や予約システム、遠隔画像診断、PACSなどの院内ICTツールを積極的に活用する“デジタルクリニック”を目指している点にある。中でも舟木さんがクリニックの要と位置づけるのが、アプリを通じて患者とビデオ通話や検査結果の共有ができ、リウマチ膠原病診療でメリットを感じられるコミュニケーションツールの存在だ。
同院が導入しているのは、中部電力のグループ企業で健康・医療情報の一元的管理を可能にするインターネットサービスを開発するメディカルデータカードの「MeDaCa PRO」(https://www.medaca.co.jp/medaca_pro/)。舟木さんは、MeDaCa PROを導入した理由についてこう語る。
「関節リウマチの薬物療法では血液検査など副作用のモニタリングが大切です。しかしクリニックではほとんどの項目が外注検査となり、患者さんがクリニックにおられる時間内には結果が判明しません。リウマチなどの特殊項目は総合病院でも外注検査でも判明まで数日を要することが多く、後日お伝えする形になります。そのため長年、検査から結果説明までの流れを効率化したいと感じていました。さらにコロナ禍で受診頻度や滞在時間を減らす必要が出てきました。MeDaCa PROの案内を見て新鮮だったのは、検査結果をデータで送れる機能です。検査結果が出た翌日には患者さんがスマホで結果を確認でき、医師がコメントも書ける。患者さんの満足度が大幅に上がり、治療や健康への意識も高まる効果が期待できると感じました。慶應義塾大医学部発のベンチャーかつ中部電力のグループ企業という信頼性もあり、導入を即決しました」
MeDaCa PROでは、検査会社から届いた検査結果を医師が確認後、MeDaCaアプリをインストールした患者のスマホに送ることができる(図1)。患者には通知が届き、結果に医師がコメントを添えることが可能だ。ビデオ通話機能も搭載しているため、非対面でも外来と遜色ない精度で結果説明を行うことができ、クリニック・患者双方にメリットがある。このほか、次回診療予約のリマインドメールや予防接種の受付開始、急な休診などのクリニックに関するお知らせを送信できる仕組みもある。セキュリティ面では、データサーバは定評あるAWS、通信はSSL/TLS暗号化技術を採用、強固なセキュリティで運用している。
同院では導入から約1年後の2022年、アプリ利用者313人にアンケート調査(図2)を実施。「先生が身近に感じるようになった」「治療に前向きになった」「検査結果への関心が高まった」という質問に90%以上が「はい」と回答している。
「当院は難病と長く付き合う必要がある患者さんが多く、診察室だけでないつながりが大切になると感じています。MeDaCaでは、学会基準に応じた定型の評価ではないかかりつけ医としてのコメントができる点も魅力です。高齢者は複数医療機関に通院しているケースがほとんどです。医療機関からMeDaCaに送信されたデータに加え、お薬手帳やワクチン接種の案内・管理ツールとしてMeDaCaにデータを集約することが可能なので、外来でMeDaCaの画像を提示すると重複する検査を減らせる可能性があります。アプリなので運用に当たってクリニック・患者さん双方の手間がほとんどかからず、病気や治療への関心が高まったという声も多く、予想していた以上の効果を実感しています」(舟木さん)
舟木さんは、かかりつけ医として地域医療に貢献していく中で、今後重要性が増す多職種連携においてもMeDaCa PROの機能を活用したいと考えている。
「医療DXの最大の利点は医療データの共有です。当院のように難病の全身疾患を診ていくには多職種連携が重要になります。患者さんの同意のもと、看護師や理学療法士、薬剤師、訪問看護師など関係者がアプリで一元化した情報を共有できるようになれば、一人ひとりに対しより質の高い医療・介護サービス、理想的なトータルケアを提供することが可能になります。MeDaCaのメリットをたくさんの患者さんに実感してもらい、こうした環境を整えていくことが今後の大きな目標です」