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【識者の眼】「続:“かかりつけ医機能”のエビデンスは?」草場鉄周

No.5159 (2023年03月11日発行) P.59

草場鉄周 (日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)

登録日: 2023-02-28

最終更新日: 2023-02-28

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筆者の1月の論説「“かかりつけ医機能”のエビデンスは?」(No.5154)に対して、日本福祉大学名誉教授の二木立先生より「紹介論文をエビデンスとするには無理がある」というコメントを頂いた(No.5156)。まずは、真摯に論説をご覧頂きコメントを頂いたことに心より感謝したい。医療経済学者の間での専門的な論争はいざ知らず、こうした一般医療誌で議論が交わされることはほとんど目にすることがなく、本来はこうした議論があってしかるべきであり大歓迎である。

筆者も引用論文を再確認したが、あくまでも当時の限られた医療先進13カ国において「プライマリ・ケア指数と医療費の関係に逆相関があった」というデータであり、相関係数そのものは因果関係とは必ずしも一致しないことを考えると、「プライマリ・ケアを強化すれば医療費が減る」という主張ができないのは二木教授のおっしゃるとおりだと考える。また、御指摘の通りデータは1997年と古く、制度改革が行われたドイツやフランスのプライマリ・ケア指数の上昇も予想されるので、2023年時点でどのような結果になるかはもちろんわからない。

また、本誌No.5132にて二木教授が紹介された実証研究は筆者も拝読したが、説得力のあるものと考える。その一方で、二木教授よりプライマリ・ケアの拡充が医療の質を引き上げるというエビデンスは少なからず報告されていることも紹介されている点は心強い。筆者が紹介した論文でもプライマリ・ケアスコアと国民の健康指標には正の相関があることが示されており、他の論文と方向性が一致していることは事実である。

改めて医療費に関するエビデンスを探索することの難しさを今回の議論で実感している。例えば、現在の日本の出来高払いでは健康相談に応じて15分じっくり傾聴することには再診料73点(730円)しか頂けないが、一般的な検査を実施すれば検査判断料で144点(1440円)、処方すれば処方箋料で68点(680円)を頂ける。この診療報酬制度では、プライマリ・ケアを強化して不要な検査や処方を行わないことが、結果的に医療費を減らすことにつながるかもしれないが、健康相談そのものにもっと高い付加価値を与えて検査判断料や処方箋料を減らせば医療費は逆に増えることになるかもしれない。つまり、プライマリ・ケアの推進と医療費の関連は診療報酬制度の介在度合いがきわめて大きく単純な判断は難しい。また、日本の医療費には公的保険以外の健診や予防接種、母子保健などが含まれないことも多く、見た目は医療費が少なく見積もられる可能性も高いという問題もはらんでいる。

今後も様々な観点からプライマリ・ケアについてのエビデンスを本誌に提供していきたい。私が理事長を務める日本プライマリ・ケア連合学会でも医療政策に関する委員会を近々立ち上げ、丁寧な検討を重ねた上で、こうしたエビデンスに基づく政策提言を行っていく予定である。読者の皆様からのご意見もお待ちしている。

草場鉄周(日本プライマリ・ケア連合学会理事長、医療法人北海道家庭医療学センター理事長)[総合診療/家庭医療]

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