編著: | 名郷直樹 |
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編著: | 鹿野泰寛 |
判型: | A5判 |
頁数: | 296頁 |
装丁: | 2色部分カラー |
発行日: | 2025年06月20日 |
ISBN: | 978-4-7849-2376-2 |
版数: | 第1版 |
付録: | 無料の電子版が付属(巻末のシリアルコードを登録すると、本書の全ページを閲覧できます) |
◆医学論文の読み方がわからない……。先輩に言われていやいや読んでいる……。ただ読んでそれで終わり……。それではもったいなさすぎます!
◆「医学論文はおもしろい!」と言い切る名郷直樹先生が、実際に行った抄読会に沿って「論文の読み方・それを臨床現場でどう活かすか」を徹底解説。論文の内容によって「どこに注目すればよいのか」「まず確認する点は」といった基礎的なところから理解できます。
第1章 名郷先生と抄読会やってみた
1 RCTの読み方,教えてください!
2 非劣性試験の読み方,教えてください!
3 コホート研究の読み方,教えてください! part 1
4 メタ分析の読み方,教えてください!
5 診断研究論文の読み方,教えてください!
6 ガイドラインの読み方,教えてください!
7 コホート研究の読み方,教えてください! part 2
8 薬剤変更試験の読み方,教えてください!
9 エコロジカル研究の読み方,教えてください!
10 スクリーニング研究の読み方,教えてください!
第2章 裏抄読会(対談編)
1 真のアウトカムとは
2 社会に絡め取られている個人
3 同じネタを繰り返し勉強する
4 いろいろな気持ちが併存する
5 論文を読み始めるきっかけ
6 エビデンスとの距離感
7 患者中心の医療
8 ごちゃごちゃの中にある糸口
9 医師への信頼,モチベーション
10 プロセスとアウトカム
11 患者にエビデンスをどこまで説明するか
12 病態生理と臨床試験
13 脚気論争
14 反ワクチンと地動説
15 因果関係に囚われると,人は不幸になる
16 あんたの興味を捨てなさい
第3章 抄読会のステップ5
【コラム】
① RCTの批判的吟味
② アブダクションと3つの推論
③ ITT,modified ITT/FAS,PPS
④ 複合アウトカムの問題点
⑤ 人種は実在するか? ─ 醜いアヒルの子の定理 ─
⑥ ボンフェローニ補正
⑦ 出版バイアスとファンネルプロット
⑧ 評価者バイアス
⑨ ゼンメルワイスの臨床試験と現代医療
⑩ なぜ論文ではリスク比が多用されるのか?
⑪ 日本語で理解する感度,特異度,尤度比
⑫ 臨床医を模倣するSSLR(階層別尤度比)
⑬ golden standardかgold standardか
⑭ 急性虫垂炎と確証バイアス(verification bias)
⑮ RD・レイン『結ぼれ』
⑯ EBM,お前はそこに居ろ,そこが指定席だ
⑰ I think it’s great. But it’s my baby.
⑱ エビ固め
⑲ 末期がん患者で死亡をアウトカムにする意味があるか?
⑳ 「 生存率」「有病率」は,本当は “率” ではない
㉑ サブグループ分析の問題点
㉒ 曝露因子,交絡因子の最初の測定後の変化に対する対応
㉓ 交絡因子の対応法のいろいろ
㉔ サブグループ分析と交互作用
㉕ 盲検化の段階,隠蔽化との違い
㉖ 術前抗菌薬の普及までの長い道のり
㉗ Zelenのランダム化の利点と欠点
㉘ 健診・検診の2つのタイプ,対策型と任意型
【インチキ研究から学ぶEBM事件簿】
① ディオバン事件と入院アウトカム
② Anturane Reinfarction TrialとITT解析
③ 非劣性と言えない非劣性試験
④ 悪が得する「アクトス®」
⑤ 企業COIの影響力
⑥ インフルエンザ迅速キット添付文書のインチキ
⑦ 双子座と天秤座生まれはアスピリンで死亡が増える?
「医学論文」は面白い
「SNS」や「YouTube」より,まして「マニュアル本」など比較にならない
「医学論文は面白い」,これが本書の基本となるコンセプトである。論文そのものも面白いし,それを現場でどう利用するかも面白い。日々の臨床の醍醐味のひとつだ。論文を読まなければ,その楽しみを経験することができない。
その論文を手に入れる労力は,ここ数十年で激減した。大学の図書館にでも行かなければ手に入らなかった論文情報が,インターネットを介して,湯水のように,リアルタイムで手に入る。世界最大の医学データベースMEDLINEが検索できるPubMedは無料だし,その中には全文が無料で閲覧できる論文が何百万もある。そうした情報の大部分は英語であるが,翻訳ソフトの発達により日本語で読むことも可能だし,日本語の要約サービスも複数ある。さらにSNSやYouTubeでも大量の医学情報が流される。そして,その多くは無料で手に入る。
ただこの情報入手の容易さに反して,医学論文はあまり読まれていない。研修に来る医学生や研修医にどれくらい医学論文を読むかと聞いても,学生は研究室配属になったときに読むくらいで,研修医でも外来や病棟実習中に読むことはほとんどないという。なんとも残念なことだ。もちろんマニュアル本やガイドライン,UpToDate,今日の臨床サポートなどの電子版教科書から得られる医学情報でとりあえず十分事足りるという現実もある。
しかしこの状況に何を言いたいかと言えば,「ガイドラインや教科書を読んでも,それほど面白くないでしょう。元の医学論文は,小説や映画のように,あるいは漫画のように,面白いんですよ」ということだ。
医学論文といっても,教科書同様,ある検査が有効/有効でない,またはある治療が有効/有効でないというわかりきった事実が並んでいるだけと思われるかもしれない。しかし決してそうではない。うそかまことかわからない,虚々実々のあいまいな,真実ばかりとは言えない,バイアスと偶然の影響が入り混じった,ある種の事実の一側面が提示されているだけで,そこから何を読むかは,意外に自由な部分があるし,さらにその論文を臨床現場で使うとなれば,うそとまことをいかに操るかという,人生そのものの面白さを凝縮したようなところがある。
「医学論文ほど面白いものはない」
30年以上にわたって,医学論文に接してきた私の率直な感想である。もちろんそこには様々な困難もある。しかしその困難もまた面白さの大きな要素だ。多少の困難はあった方が面白い。本書によってその困難が面白さに変わり,多くの医学論文が読まれ,多くの患者に生かされることを願って,本書のはじめのことばとしたい。
名郷直樹