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【識者の眼】「高齢者に対するコロナ対策─リスクとベネフィット」杉村和朗

No.5162 (2023年04月01日発行) P.61

杉村和朗 (兵庫県病院事業管理者)

登録日: 2023-03-23

最終更新日: 2023-03-23

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この時期になると、桜の開花時期が話題になる。個人的には上品な梅の花と香りも好きだが、桜の華やかさは特別である。今までもいつ頃花見に行こうかとわくわくしてきたが、コロナ禍の3年間は、花見は3密にならずに運動不足を解消できる格好の機会であった。飲食禁止で喧騒から逃れることができたこともあり、それはそれで良かったように思う。

コロナによる運動不足、人との交流の減少は、多くの人に悪影響を与えたが、顕著なのは高齢者である。認知症の予防、進行を遅らせる上で、生活習慣病の管理、食事、運動、人との交流等が有用と考えられているが、多くの高齢者でこれらが制限を受けてきた。コロナ感染による高齢者の死亡リスクがきわめて高いため、高齢者が外出を控えたり、高齢者施設が面会禁止を選択したことは理解できるが、それによる体力の低下、知力の低下による認知症の悪化、増加が懸念される。

ワクチンの普及、オミクロン株の出現により重症化率が低下してきたにもかかわらず、高齢者への対応に大きな変化は見られない。死亡者数の非常に多くの割合を高齢者が占めているため、高齢者施設で厳重な対応を続けていることは致し方なかった。withコロナの議論の多くは、経済的な側面から語られることが多い。ここで考えておくべきは、今後予測される高齢者の認知症患者の急増である。

2017年版高齢社会白書で認知症は2030年に830万人、高齢者の22.5%を占めると予測されている。最近FDAに承認されたレカベナブは悪化抑制効果が27%であると報告され、認知症に明るい未来が開かれたと報道された。しかしながらたとえMCI(軽度認知障害)の段階でも、症状の進行を遅らせることができるというだけで、健常人に戻るわけではない。現時点では健常人に様々な介入を行い、認知症リスクを低下させることが最も効果的で、現実的な対応である。

様々な介入のなかでも、運動は脳の活性化のみならず、転倒や生活習慣病による認知症を予防することに役立つとされる。これに加えて、いわゆる脳トレによる知的刺激、他者とのコミュニケーションは、認知症予防にエビデンスがあるとされている。

高齢者をコロナから守ろうとすると、認知症が進行しやすいというリスクがある。何事にも表裏があるが、「羮に懲りて膾を吹く」状況にならないよう、リスクとベネフィットを冷静に議論すべき段階に来ている。これは高齢者施設にすべてのリスクを回避させることを求めるのではなく、入所者やその家族のみならず国民全体で、どの程度のリスクを許容するかについて議論していく必要がある。

杉村和朗(兵庫県病院事業管理者)[新型コロナウイルス感染症][認知症]

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