人工知能(AI)研究の第一人者として知られる東大大学院工学系研究科教授の松尾豊氏は4月21日、日本医学会総会のシンポジウム「AIが変える医学研究」(共催:グーグル・クラウド・ジャパン合同会社)で講演し、「ChatGPT」などの大規模言語モデル(LLM)の急速な進展は「(医療従事者が)本来時間を割くべき部分により集中できるようになる」など医療にプラスの効果をもたらすとの見通しを示した。
LLMについて松尾氏は「次の単語を予測するということをやっているだけなのに、数学の問題も解けるようになり、人の気持ちも分かるようになっている。精度を上げる過程の中でいろいろなことが学習されてしまっている」と、驚異的なスピードで進化していることを強調。
「目的に特化したLLMもたくさんできていくはず。法律的な見地、医学的な見地から正しいコメントをするようなChatGPTも作っていける。相手を励ましたり、理解度に合わせて分かりやすく教えたりするものもできる」との予測を示し、「ホワイトカラーの仕事のほぼすべてに非常に大きな影響があるのではないか。高賃金の職業、参入障壁の高い業界ほど影響が大きいと予想されている」と述べた。
医療への影響も大きく、ChatGPT(GPT3.5)を使うと「医師国家試験の問題もある程度解くことができる」とし、一方で、グーグルとディープマインドが開発した「Med-PaLM」など医療ドメインに特化したLLMも登場していることを紹介。こうした動きによりLLMの正確性が増すことで「医療の現場は人が強い部分、本来時間を割くべき部分により集中できるようになるという効果があるはずだ」と述べた。
シンポではこのほか、国立がん研究センターの小林和馬氏が、同センターと富士フイルムが共同開発した「AI開発支援プラットフォーム」(医師がAI技術を開発できる研究基盤システム)を紹介しながら、人命に関わる判断に影響を及ぼす医療AIシステムでは、人間を介在させる「責任あるAI」が求められていると訴えた。