政府の医療DX推進本部(本部長=岸田文雄首相)は6月1日、医療DXの推進に関する工程表を決定した。オンライン資格確認等システムを拡充した「全国医療情報プラットフォーム」の運用を2025年度から開始し、医療機関、薬局などの間で検査値や傷病名、アレルギー情報などを共有できるようにする。標準型電子カルテについては、「遅くとも2030年には概ねすべての医療機関において導入を目指す」と明記。診療報酬改定DXでは、共通算定モジュールの開発をすすめ、標準型電子カルテと一体的に2026年度から本格的に提供するとしている。
工程表は政府として取り組む医療DXの基本的な考え方と具体的施策、その到達点を定めたもの。昨年10月に医療DX推進本部が設置されて以来、下部組織の幹事会で検討されてきた。
具体的施策として列記されたのは、(1)マイナンバーカードと健康保険証の一体化の加速等、(2)全国医療情報プラットフォームの構築、(3)電子カルテ情報の標準化等、(4)診療報酬改定DX、(5)医療DXの実施主体―の5分野。
このうち(1)では、オンライン資格確認(以下、「オン資確認」)を「医療DXの基盤」と位置付けた上で、マイナカードの機能を搭載したスマホで健康保険証利用の仕組みの導入を進め、「2024年秋の健康保険証の廃止を目指す」と改めて明記。生活保護(医療扶助)でのオン資確認も2023年度中に導入するとした。
(2)の「全国医療情報プラットフォーム」は、オン資確認等システムを拡充して、医療機関や薬局、介護事業者、行政、保険者などの間で保健・医療・介護の情報を共有するもの。現在は書類でやり取りされている予防接種や母子保健、公費負担医療などの情報共有、申請手続をオンラインで完結させる。いずれも2023年度から検討を始め、順次全国展開をしていく方針。また新型コロナウイルス感染症での反省を踏まえ、次の感染症危機に備えて施策のデジタル化のあり方について「2023年度中も検討を進め、早期に結論を得る」とした。
2023年1月から運用が始まった電子処方箋については、「2025年3月までに、オン資確認を導入したすべての医療機関・薬局に導入することを目指して必要な支援を行う−とした。
医療機関と薬局の間で利用する「電子カルテ情報共有サービス(仮称)」は2023年度中に仕様の確定と調達を行い、2024年度中に、電子カルテ情報の標準化(下記参照)を実現した医療機関から順次運用を開始するとした。
(3)の電子カルテでは、3文書6情報の共有を順次進める。具体的には、2023年度に透析情報とアレルギー物質のコード情報、2024年度には蘇生処置の関連情報、歯科、看護の領域に拡充する。
標準規格(HL7FHIR)に準拠したクラウドベースの「標準型電子カルテ」の整備も進める。2024年度に開発に着手し、「遅くとも2030年には概ねすべての医療機関において必要な患者の医療情報を共有するための電子カルテの導入を目指す」とした。
(4)の診療報酬改定DXでは、2024年度に「共通算定モジュール」の開発を進める。これは診療報酬の算定と患者の窓口負担金計算を行う全国統一のプログラムで、2025年度にモデル事業を実施した上で2026年度に本格的に医療機関に提供する。これを実装した標準型レセプトコンピュータを、標準型電子カルテと一体的に提供することで、「医療機関等のシステムを抜本的にモダンシステム化していく」と強調している。
診療報酬改定時の負担軽減を図る観点から、施行時期の後ろ倒しについても中医協の「議論を踏まえて検討する」としている。
(5)では、オン資確認等システムの経験・ノウハウを生かす観点から、「社会保険診療報酬支払基金を、審査支払機能に加え、医療DXに関するシステムの開発・運用主体の母体とし、抜本的に改組する」と今回初めて明記した。