2023年6月12日に「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」(以下、検討会)の報告書が公表された。本検討会は、22年8月31日に「医薬品の迅速かつ安定的な供給のための流通・薬価制度に関する有識者検討会」としてスタートしたものが、名称を変更し、開催趣旨、目的、構成員も変更(追加)して、同年9月以降、新たな検討会として全13回の議論を重ねて、報告書を取りまとめたものである。
検討会では、薬価、流通、アクセス、安定供給等について総合的な議論が行われ、医薬品産業をエコシステムととらえて、俯瞰的な議論ができた点は画期的であった。
検討会における議論のポイントは以下の3つにまとめられ、報告書でもそれぞれについて現状分析と対策の方向性が示されている。順不同になるが、1つめは新薬が日本で上市されにくくなっていること(ドラッグラグ/ドラッグロス)、2つめは後発医薬品を中心とした供給不足、3つめは市場実勢価格に基づき薬価が下げられる仕組みの背景として、市場実勢価格が大きく下落する医薬品流通制度のあり方─に整理できる。
その他として、薬価の毎年改定とマクロ薬剤費などが検討課題であることが示された。いずれにしても広範なテーマであったため、提言としての不十分さを指摘する批判的意見が出ることはやむを得ないものとは思われる。そこで、継続して議論すべきポイントについて私見を述べてみたい。
まず新薬上市の課題であるが、基本的な論点としての国内企業の創薬力強化や、そのためのオープンイノベーションシステム構築の重要性については、提言に含まれる通りである。一方で、グローバル企業からみた日本市場の魅力度向上につながる薬価制度の必要性は示されているものの、イノベーション等をどのように評価するか、評価結果を薬価制度にどのように組み込むかについてはより具体的な議論が継続される必要がある。
企業側からの要望にも、より広範な視点からの薬の価値評価やイノベーション評価の必要性、特許期間中の価格維持の仕組みが要望として示されたが、新薬のすべてについてこれらの仕組みを対象とする必要性は低い。イノベーションレベルが高いと判断される新薬を絞り込んで、価値評価や価格維持の仕組みを導入すべきであり、そのために、イノベーションの定義と価値評価の方法論、さらに制度への反映方法などの技術的な制度設計も含めて、より具体的な案を検討する必要があると考える。
国内新薬開発の課題としてもう1つ指摘されたのが「長期収載品による収益への依存から脱却」する方策である。この点に関する報告書の記述は、後発医薬品の使用促進が中心であり、イノベーティブ製品を開発すべき企業が長期収載品に依存していることについての対策が不十分である。また、本連載でも触れたように(No.5030)、オーソライズドジェネリック(AG)は、AGを販売している企業から金銭の支払いを受けており、実質的な長期収載品依存経営である。この点については、検討会においても数回にわたり問題が指摘されてきたものの、具体策は示されておらず、継続的な議論が必要である。
検討会は継続されることになっており、本検討会の機能である薬価、流通、アクセス等にまたがるテーマとして議論を継続すべき点について、今後、数回にわけて論じていきたい。
坂巻弘之(神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授)[薬価][厚労省検討会報告書]