以前、「表現の自由」と「医学的に不正確な情報の発信」に関する問題点について解説した(No.5135)。情報の受け手側のヘルスリテラシー向上の必要性について言及するとともに、情報を発信する側(出版社のほか個人やメディア含む)にも苦言を呈した。具体的には「憲法第21条で表現の自由は保障されているが、第12条では自由や権利を濫用してはならず、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負う」というものである。
最近、米国の企業ではあるが、動画共有サービスのYouTubeが、誤った医学情報に関するポリシーを公表した1)。YouTubeは、これまでにも新型コロナウイルスに関する誤情報動画の削除(2020年)、中絶に関する誤情報動画の削除(2021年)など、医学的に誤った情報へ対処してきていた。今回、このような医学に関する誤情報動画についてのポリシーを強化するとともに、がん治療に関する誤情報動画の削除を開始した。
ポリシー強化にあたっては、予防、治療、事実の否定という3つのカテゴリーに整理し、地域の公衆衛生機関や世界保健機関(WHO)が発信するガイダンスと矛盾する情報について適用されていく。
〈具体例〉
「がん」については、国際的に有効で安全な治療法についてコンセンサスが取れている一方で、誤った情報が拡散されやすいトピックでもあり、公衆衛生上のリスクが高い疾患として、YouTubeは新しいフレームワークの適用対象としている。がんと診断された人やその家族の多くが、インターネットで症状を検索したり、治療経過について調べたり、コミュニティを探したりする。YouTubeは、そのようなときに信頼できる医療情報源からの質の高いコンテンツを簡単に見つけられるようにすることをミッションとして掲げている。そして、有害または有効でないことが確認されているがんの治療法を推奨するコンテンツ、視聴者に専門的な治療を受けないよう勧めるコンテンツ、がんの承認された治療法よりも代替療法のほうが安全または有効であると主張するコンテンツなどを削除するとともに、信頼できる情報源から集めた実用的かつ有益ながん関連動画のプレイリスト(現在、英語版のみ)を提供するとしている。
YouTubeで健康や医療に関する情報を発信している人は、動画再生回数を追い求めるあまり、陰謀論や逆張りなど医学的に誤ったコンテンツを作成することのないよう肝に銘じて頂きたい。
【文献】
1)日本版YouTube公式ブログ:誤った医療情報に関する YouTube ポリシーの長期的なビジョン.(2023年8月18日)
https://youtube-jp.googleblog.com/2023/08/a-long-term-vision-for-medical-misinformation-policies.html
大野 智(島根大学医学部附属病院臨床研究センター長)[統合医療・補完代替療法㊺]