2024年6月に予定されている診療報酬改定に向けて、様々な報道が行われている。これらの報道で伝えられる内容は、改定時の風物詩的な側面もあり、それぞれのステークホルダーの思惑も入り乱れる中、経過を若干表面的に追った報道が先行しているようにも見受けられる1)2)。
次回は医療・介護・障害福祉サービス等のトリプル改定となり、大規模で重要なものになることも予想される。今後、中医協における議論を経て最終決定に至るまでは引き続き紆余曲折はあるだろうが、この数年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対応における混乱で疲弊した現場に追い打ちをかけるものにならないことを、現場の人間の1人として切に願う限りである。
さて、2023年11月29日の第104回社会保障審議会医療部会において、「令和6年度診療報酬改定の基本方針」として、厚生労働省の診療報酬改定に向けたスタンスがまずは示された。厚労省からは重点課題として「現下の雇用情勢もふまえた人材確保・働き方改革等の推進」が挙げられ、その他「ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進」「安心・安全で質の高い医療の推進」「効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上」の視点から、それぞれについて具体的な方向性の例が示されている3)。これらはすべて現下の重要課題であり、方向性そのものに異論はない。
特に注目したいのが、2番目の「医療機能の分化・強化、連携の推進」である。マイナンバー、電子処方箋の導入に加え、電子カルテの標準化、全国医療情報プラットフォーム開発と、急ピッチで進む医療DXをさらに後押しする診療報酬体制を個人的には期待したい。
一例として、慢性疾患で当院を通院中の患者に、高次機能病院への紹介が必要になった場合を取り上げてみよう。現在、多くの病院は事前予約が必要であり、その予約の調整は通常電話やFAXで行われている。その上で診療情報は紙ベースで作成し、患者に手渡ししている。画像ファイルなどはCD-ROM等にコピーし、事前送付が必要な場合もある。
これらはすべて医療DXにより省力化できるものである。また、PHR(Personal Health Record)を通じ施設を越えて臨床情報を共有することが可能になれば、省力化のみならず医療の質の向上も期待できる。もちろんそのためには、堅牢なシステムの構築だけでは不十分であり、これらを管理する人的・物的資源等の充当も必要である。診療報酬改定の議論は、単なる点数合わせの攻防にとどまらず、未来の医療を見据えた議論になることを期待したい。
【文献】
1)NHKニュースWEB公式サイト:来年度の診療報酬改定“引き下げで負担軽減”財政審.(2023年11月20日)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231120/k10014263301000.html
2)同上:来年度の診療報酬改定 年内決定に向け 議論活発化へ.(2023年11月25日)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231125/k10014268311000.html
3)社会保障審議会医療部会:令和6年度診療報酬改定の基本方針(骨子案).
https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/001172595.pdf
松村真司(松村医院院長)[診療報酬改定の基本方針]