緩和ケア病棟では、毎日のように何らかのカンファレンスが行われる。患者の状態は日々変化し、また身体的な容態以外にも心理・社会的な状況も目まぐるしく揺れ動くのが当然の緩和ケアの現場では、毎日スタッフ間で意見交換が必要なのは当然のことである。
このような日々のカンファレンスの中でも、週に1〜2回、1時間かけて行われるものがある。単に患者の病状や方針の確認をして終わるようなショートカンファレンスではなく、その1時間の中で1人にフォーカスして行われるものだ。大抵は、患者を取り巻く倫理的な問題や、退院調整、患者と家族との諍いといった、簡単には答えが出ない課題が扱われる。
このときに重要になるのが「グループ・ファシリテーション」のスキルである。
カンファレンスでは一般に、医長や看護リーダーなどが司会を務めることが多いが、大抵の場合、「司会になっていない」ことが多いものだ。司会が場を司れないため、主治医が延々と持論を語って終わりになってしまったり、特定の看護師だけが少しコメントを挟むだけになってしまったり、という場合が多い。しまいには、司会役であった人もいつの間にかその役割を放棄し、参加者の1人のような感覚でしゃべり続けてしまう……といったこともある。一対一のコミュニケーションには長けている緩和ケアのスタッフであっても、グループ全体をファシリテートする技術は教わっていないため、このようなお粗末な結果に陥ってしまうものだ。
先述したように、緩和ケアの現場におけるカンファレンスは何か「答え」を出すことが唯一の正解とは言えない。その意味で、主治医だけが自らの「正しさ」を説明するだけのカンファレンスでは不十分である。今こそ、少なくとも管理職以上の医師・看護師は複数人に対するファシリテーションのスキルを学んだほうがよい。
しかし、一概にそれを学べ、とは言ってもどう学ぶのが良いのか? 適切な教材や研修は、実のところあまり存在しない。今のところはなるべく実践の中で場数を踏んで、各自で試行錯誤を繰り返すしかなさそうだ。
そこで、カンファレンスの司会をするときに心がけてほしいポイントを2つ教えておこう。
1つ目は、「脳の半分で聴き、もう半分で進行を考える」ということ。発言している人の言葉を一言一句聴き入るのではなく、要点をキーワードと流れで抑えつつ、カンファレンス全体のストーリーをつくることに脳を割く。次に誰に話を振るか、他の職種の意見を足したほうがよいか、ということを同時に考える。
そして2つ目は、「簡単に結論にたどり着かせないこと」。たとえば、主治医が支配的な意見を述べたとしても、「なるほど、確かにそういう考え方もありますね。では○○さんはどう考えますか?」と意見を一時棚上げして保留し続けることで、個々の意見を相対化して影響力を弱めることができる。そして先述した「ストーリー」に沿って流れをつくっていき、最終的にそれらを相対化した意見を統合して、そのカンファレンスの「答え」を出していくのが司会の仕事となるのである。
では、カンファレンス以外の「がんサロン」などの現場でも同じようにできるのか、については来月にまた考えていくとしよう。
監修:福島沙紀(臨床心理士・公認心理師)
西 智弘(川崎市立井田病院腫瘍内科/緩和ケア内科)[議論を司る技術]