3年前、最も長生きのできるスポーツとしてテニスを本誌で紹介したところ、いくつかのテニスクラブの壁面に私の記事のコピーが貼られているという報告を受けた。テニスクラブへの勧誘に使用されていることに驚いたが、日本医事新報の影響力にも感心した。引用した論文はMayo Clinic Proceedingに掲載されたものであり、しばらく後に朝日新聞でも紹介された。
私がテニスを始めたのは40年ほど前、米国のヒューストンに留学していたときである。家内と2人でラケットを購入し、知り合いの日本人留学生の方々と始めたのが最初であった。ヒューストン市内には至る所に無料のテニスコートがあったため、連日のようにプレーをすることができた。ゼロからの出発であったが、少しずつ進歩がみられるようになり、どんどんはまっていった。ヒューストンは南部なので暑い日が多く、40℃近くになることもたびたびあったが、若かったせいか麦茶をどっさり用意することによって切り抜けることができた。それ以来、今に至るまでテニス優先の日々を送っている。
テニスが健康にとって良いのは身をもって実感していることであるが、文献によるとテニスは全身運動で心肺能力や筋力、バランス感覚を向上させる効果があり、ストレスを軽減させると言われている。これだけなら、他のスポーツでも同じ効果が出て不思議はないはずである。テニスのダブルスではパートナーと協力してプレーをするため、社会的交流の機会が増えるのみならず、戦略的にパートナーとの協力関係の構築が必須であり、集中力や判断力を養うことができる。それゆえ、テニスを長期間行うことで脳の機能を活性化 し、認知症の予防にも有効であると言われている。
私が若い頃は馬力に任せて強打によって相手を打ち負かすことばかりを考えていたが、年を経るごとに力任せではなく相手からポイントを奪うコツのようなものが身についてきたと思う。始めた当時からみると、ゲームではるかに頭を使っているのが自覚できる。30代の頃の自分と今の自分とでゲームを行ったら、後期高齢者の自分が勝ってしまうのではないかと妄想することがたまにある。
このように、どの年代でもそれなりに楽しめて健康を維持でき、亡くなる直前まで継続可能なテニスというスポーツは、私にとって人生の最高の友と思っている。何よりゲームを終えてから飲む1杯のビールの美味しさは格別で、説明の必要がない。