皆さんはお酒を嗜まれますか? 酒は紀元前からの歴史・文化があり、私たちの生活と密接に関わっています。2022年4月に民法が改正され、成人年齢は20歳から18歳に引き下げられましたが、酒、たばこの年齢制限は健康面への影響から20歳のままです。このように年齢制限はあるものの、大人になって、酒=アルコールに親しまれる方は多いと思います。
一方、負の側面として、アルコールによって健康障害をきたしたり、アルコール依存症を発症したりする方もいます。私が勤務する国立病院機構久里浜医療センターは、1963年に日本で初めてアルコール依存症の診療を開始した医療機関で、これまでアルコールに関連する問題でお悩みの方を数多く診療してきました。アルコール依存症にはいくつかの特徴がありますが、その1つに、本人の病識が乏しく、治療につながりにくい、ということがあります。では、なぜ本人の病識が乏しいかというと、同じ飲酒量であっても個人によって影響が異なり、また、体調等によっても影響が変わりえるからです。つまり、飲酒量だけではどこまでが正常で、どこからが問題かという線引きが難しいのです。
とはいえ、長期的なアルコール摂取に関連する健康障害のエビデンスは蓄積されてきています。2024年2月、厚生労働省は、国民一人ひとりがアルコール問題への関心・理解を深め、アルコール健康障害の予防に注意を払い、不適切な飲酒を減らすことを期待して「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」を公表しました。
本ガイドラインでは、高血圧や男性の食道がん、女性の出血性脳卒中などは、少量であっても飲酒自体が発症リスクを高めるため、飲酒量をできる限り少なくすることとしています。具体的な例として、大腸がんは、1日当たり純アルコール量約20g程度以上の飲酒を続けると発症の可能性が上がる等の研究結果も示しています。また、飲酒は疾患や臓器によっても影響が異なり、その影響にも個人差があるため、かかりつけ医に飲酒に関する相談をすることを推奨しています。
参考となる飲酒量の目安は、「健康日本21(第三次)」において、生活習慣病のリスクを高める飲酒量として、純アルコール摂取量(1日当たり)が男性40g以上、女性20g以上と示されています。患者様からアルコールに関する相談を受けた際は、これらの数値を参考にされてはいかがでしょうか。
最後に、冒頭の言葉には続きがあるようです。
酒は百薬の長、されど万病のもと
自身のアルコールの体質と向き合い、適正な飲酒を心がけましょう。また、日常の診療において、アルコールとのつき合い方に悩まれている患者様の対応にお困りの際は、お気軽に都道府県・政令市に設置されている精神保健福祉センターや精神科医療機関を紹介して頂ければと思います。
松﨑尊信(国立病院機構久里浜医療センター精神科診療部長)[飲酒][厚生労働省][ガイドライン][健康日本21(第三次)]