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【識者の眼】「わたしの健康、わたしの権利(My health,my right)」中村安秀

No.5219 (2024年05月04日発行) P.61

中村安秀 (公益社団法人日本WHO協会理事長)

登録日: 2024-04-16

最終更新日: 2024-04-16

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2024年の世界保健機関(WHO)世界保健デー(4月7日)のテーマは、“My health,my right”(わたしの健康、わたしの権利)であった。

日本国憲法第97条に「この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて」と書かれているように、1789年のフランス人権宣言以降、多くの国や地域で人間の権利を獲得するための挑戦が行われてきた。

健康と人権の関係が国際的に認められたのは、直接的な戦闘被害に加えて、感染症により多くの兵士や市民の命が奪われ、ナチスによる残虐な殺戮行為が明らかとなった第二次世界大戦の後であった。1948年に採択されたWHO憲章では次のように明記された。

「人種、宗教、政治信条や経済的・社会的条件によって差別されることなく、到達しうる最高水準の健康に恵まれることは、あらゆる人々にとっての基本的人権のひとつです。(中略)各国政府には自国民の健康に対する責任があり、その責任を果たすためには、十分な健康対策と社会的施策を行わなければなりません」。

WHO憲章において、健康とは基本的人権という社会的概念として認識され、各国政府には単なる保健医療サービスの提供だけではなく、社会的な施策を求めていた。

1990年代にハーバード大学公衆衛生大学院で学んだときに、「ハーバード大学FXB健康・人権センター」の存在を知った。Jonathan Mann初代所長はWHOエイズ・グローバルプログラムのリーダーの経歴を持つ人物で、当時はHIV/AIDSによる差別が社会問題となっていた時代でもあった。

人びとの健康に関わる課題の多くは人権問題であり、人権侵害は健康に悪影響を及ぼす面からも人権は健康問題でもあり、健康と人権の連関を科学的に実証すべきである─という同センターの主張には、大きなインパクトがあった。

翻って、ポスト・コロナ時代の日本において、健康と人権はきちんと議論されているのだろうか?

持続可能な開発目標(SDGs)の「だれひとり取り残さない」という美辞麗句だけでは、「健康と人権」の解決にならない。感染症の患者とその家族、外国人・移民、自然災害の被災者、原発事故の避難者など。私たちの社会は、彼らを本当にとり残していないのだろうか?

世界に誇りうる国民皆保険制度の中で、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)のセーフティ・ネットからこぼれ落ちた人々への公平で真摯な対応が求められている。

私自身は、日本の医学教育の中で「健康と人権」について学んだ記憶はほとんどなかった。現在の学生たちはきっと多くの学ぶ機会を得ていることだと思う。

世界保健デーのテーマ“My health,my right”をきっかけにして、HIV/AIDSやハンセン病への差別など、日本国内における健康に関わる人権侵害の歴史と現状を把握した上で行動につながるような、医学部や看護学部の学生に対する学習機会が増えることを期待したい。

中村安秀(公益社団法人日本WHO協会理事長)[WHO[世界保健デー][健康と権利]

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