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胃がんの見逃しを防ぐ内視鏡AIソフトウェアの可能性〜多田智裕(AIメディカルサービス代表取締役CEO・医師)【この人に聞きたい】

No.5219 (2024年05月04日発行) P.14

多田智裕 (AIメディカルサービス代表取締役CEO・医師)

登録日: 2024-05-02

最終更新日: 2024-04-26

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医師の能力を伸ばすAIを活用した
内視鏡診断支援システムで
世界中のがんの見逃しを撲滅したい

ただ ともひろ:1995年東京大医学部卒。同大医学部附属病院、三楽病院、東葛辻仲病院などを経て、2006年ただともひろ胃腸科肛門科を開業。2012年より同大学医学部大腸肛門外科学講座客員講師。日本外科学会専門医、日本消化器内視鏡学会指導医、日本消化器病学会専門医、日本大腸肛門病学会専門医。

医療におけるAIの活用市場は、2030年までに29兆円規模に達するといわれている。AIを搭載した医療機器や診断機器の開発競争は激しさを増し、上市が相次いでいる。2023年12月に医療機器製造販売承認を取得、内視鏡検査の診断精度の向上につながることが期待される胃がん内視鏡診断支援システム「gastroAI」を開発した医師でAIメディカル代表の多田智裕氏に、医療現場でのAIの効果的な活用法や今後の可能性について話を聞いた。

診断精度の向上にAIの画像認識能力が貢献できると確信

─開業医として地域医療に従事する中で、内視鏡AIの開発を手がけるようになった経緯を教えてください。

2005年に東京大大学院で博士号を取得後、埼玉県で内視鏡専門クリニックを開業しました。内視鏡検査を年間9000件行うなど日々の診療に加え、対策型胃がん内視鏡検診の普及や大腸内視鏡挿入法の教科書の執筆などに取り組んできたこの15年で、内視鏡検査は安全で苦痛なくできる検査として普及が進みました。次は検査の質を上げることが課題になると考えていました。内視鏡検査は唯一消化管のがんを確定診断できる手段ですが、早期に発見できずに年間数百万人の命が失われているのです。医療現場の大きな課題である診断精度の向上にAIが貢献できると確信し、内視鏡AI黎明期の2016年より研究開発を進め、2017年にディープラーニングを用いた世界初の胃がん検出AIの開発に成功したのです。この研究成果を社会実装し、全世界に広めるべく会社を立ち上げ、製品開発を進めてきました。2023年12月に第一弾AI製品となる胃がん診断支援AIの医療機器製造販売承認を取得、今年3月から販売を開始しました。

医師の診断補助を行う内視鏡診断支援システム

─「gastroAI」の機能について教えてください。

gastroAIは、内視鏡検査中に肉眼的特徴から生検などの追加検査を検討すべき病変候補を検出し、医師の診断補助を行う内視鏡診断支援システムです。大きな特徴は、内視鏡のカスタマイズが不要でAIをインストールした汎用デバイスを既存の内視鏡機器の標準端子にケーブルでつなぐだけで使い始める点にあります。gastroAIがサポートしてくれることで、早期胃がんの見逃し率の低減や医師の心身への負担を軽減するなどの効果が期待されます。現在、胃がんを対象にしたAIを提供しているのは、当社を含めグローバルで4社しかありません。日本国内における内視鏡機器の代表的メーカーであるオリンパスと富士フイルム両社の製品で利用できるAI製品は、gastroAIのみです。

─早期胃がんの検出は専門医でも難しいとされていますが、開発段階ではどんな苦労があったのでしょうか。

早期胃がんの検出はやはり難しく、当初考えていた3倍の症例をAIに学習させる必要がありました。ただ内視鏡医療は日本が長年世界をリードしている分野で、医療水準は世界トップレベルにあり、AIの学習に必要なデータは、日本が質・量ともに世界最高です。当社は東京大学医学部附属病院やがん研有明病院など100以上の医療機関と共同研究体制を構築、20万本以上のデータを提供してもらい、AIに学習させることで製品化に成功しました。これは普通の医師が、人生を3回繰り返しても覚え切れないくらいのデータ量に相当します。

内視鏡医療の課題を解消できるプロダクト

─gastroAIが医療現場に普及することによりどのような効果が期待できるのでしょうか。

消化器系のがんは、日本のみならず、世界の人々の死亡原因の上位にあります。そして、これらのがんは内視鏡検査でしか早期発見できません。ですがこれまでは、人の目で病変部を判断しているので、内視鏡検査をしてもしっかりと診断されない事例が頻発しています。内視鏡検査ではで医師が内視鏡が撮影した動画をリアルタイム確認していますが、胃内壁にある小さな病変を見つけるのは10年以上の経験を積んだ医師でも簡単ではありません。早期胃がんは胃炎に紛れて存在していることが多いため、がんの見逃し率は5〜26%程度だといわれています。20万本のデータを学習したAIが医師と一緒にがんを探すことにより、がんの見逃しは半減、究極的にはゼロにできると確信しています。米国では年間80万人が医療ミスで命を落としているとされます。gastroAIは、医師の疲弊を軽減し、医療の診断ミス、医療ミスという内視鏡医療の抱える課題を解消するプロダクトだと考えています。

─AI医療機器の上市が相次いでいますが、医療はAIとどのように向き合っていくべきと考えますか。

AIは人の仕事を奪うとか、AIは間違わないとかAIについては誤解があまりに多いと感じています。AIは人の能力を伸ばすために使うことが正しい使い方だと思います。またAIも間違えるということを前提に使う必要があります。判断のできる専門医の指導のもと、AIを使って医療の質を高めていく、よりよくしていくものという捉え方が大切だと感じています。

世界への展開で早期発見により助かる命を救いたい

─今後の展望について教えてください。

消化器がんは世界中で多くの人の命を奪っています。現在gastroAIは、胃がんを対象としていますが、大腸や食道がんなど内視鏡検査で早期発見が可能な消化器がん全般で開発を進めていきたいと考えています。先日シンガポールで薬事承認を得ることができ、シンガポールを拠点にまずは東南アジアで普及を進めていくことで、早期発見で助かる命を一人でも多く救いたいと思います。医師がAIと一緒に判断すれば、見逃しや診断ミスを減らし、より一層の診断精度の向上が期待できるはずです。内視鏡検査のメリットはとても大きく、そのメリットを生かすため内視鏡検査の課題の解消に取り組み、全世界に展開していくことで世界の内視鏡医療の向上に貢献していきたいと思います。

(聞き手・土屋 寛)

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