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【識者の眼】「第三次試案・大綱案は恐ろしい制度だった」小田原良治

小田原良治 (日本医療法人協会常務理事・医療安全部会長、医療法人尚愛会理事長)

登録日: 2024-06-13

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厚生労働省は2008年6月、「医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案」を発表した。この大綱案と、現在の医療事故調査制度とを比較してみたい。

大綱案は、①医療事故死等の原因を究明するための調査を適確に行わせるために地方委員会を設置、国の機関として中央委員会を設置することを目的としている。責任追及の制度である。②遺族は、医療事故を疑った場合は地方委員会に医療事故調査を行うよう大臣に求めることができる。求めがあった場合は直ちに調査を開始する。③地方委員会は調査に際し、関係者に出頭を求め、質問する。関係物件の提出を求め、保全命令を出し、移動を禁止する。病院等必要と認めた場所に立ち入る。指定した者以外の現場への立ち入りを禁止する。警察捜査の手法である。さらに、地方委員会によるこれらの調査(処分)の権限は「犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない」と、黙秘すら認めていない。④調査報告書は、公表される。⑤故意疑い、標準的な医療からの著しい逸脱、隠ぺい疑い、類似医療事故の繰り返し等の場合は警察に通知する。⑥罰則があり、行為者及び法人の両罰規定である。医療者の人権を守る規定はどこにもない。⑦24時間以内に届出を行った場合は、医師法第21条の届出を免ずるとあるが、これは空文に過ぎない。

一方、現在の医療事故調査制度では、①医療機関の管理者が医療事故に該当すると判断したものを、民間団体である医療事故調査・支援センターに報告するものであり、医療現場で調査を行うことになっている。②遺族からセンターに相談があった場合は、相談の内容等を病院の管理者に伝達するのみである。③調査は当該病院等で行うものであり、センターに報告された事例についてのみ、医療機関・遺族から依頼があった場合にセンター調査が行われる。④調査報告書は、個人が特定されないように非識別化され、センターに報告される。遺族への説明は必要であるが、報告書の公表は想定していない。⑤警察への届出規定はない。⑥罰則はない。⑦医師法第21条に関する規定はないが、同条は別途、法解釈の問題として既に解決した。現在の制度は、専ら医療安全の適切な制度であることがよくわかる。  

大綱案は、2008年4月に厚生労働、法務、警察の3省庁間で合意した「第三次試案」のうち、法律で対応する事項を法律案としてまとめたものである。そのまま法律・政省令・委員会規則等が整備されれば、どのようになっていたであろうか。改めて、第三次試案・大綱案は恐ろしい制度であったと痛感する。

今、一部で医療事故調査制度を「第三次試案・大綱案」化する動きがある。医療現場を犠牲にして世間におもねる人々の責任は大きい。

小田原良治(日本医療法人協会常務理事・医療安全部会長、医療法人尚愛会理事長)[医療事故調査制度]

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