ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長は6月27日、都内で記者会見を開き、米国のがん患者データ770万件を有する医療IT企業TEMPUSとの合弁会社「SB TEMPUS(エスビーテンパス)」を設立すると発表した。SB TEMPUSは、がんゲノム医療中核拠点病院などと連携し、「遺伝子検査」「医療データの収集・解析」「AIによる治療提案」のサービスを無償で提供する事業を年内に開始する意向だ。
TEMPUSは米国の約2000病院と連携。保有する770万件のがん患者データには100万件の画像データ、97万件の病理データ、22万件のDNA/RNAのデータが含まれる。米国の約50%の腫瘍医がTEMPUSのサービスを利用し、患者の医療データ(電子カルテ、遺伝子、病理、画像)を提供することで、最適な治療薬の提示などAIによる治療選択肢レコメンドを受けているという。
SBGは、8月1日に設立するSB TEMPUSを通じて、このTEMPUSのサービスを日本の病院でも利用可能にするとしている。
会見で孫氏は、TEMPUSのサービスは、各病院で仕様が異なる電子カルテなどのデータを独自のアダプターが統合するため、各病院はシステムを変える必要はないと説明。TEMPUSは病院に負担をかけず、蓄積されたデータを製薬会社などに提供することで収益化しているとした。
孫氏は「病院にとってコストがゼロ、手間暇もゼロだから広がらないわけがない」と日本の病院での利用拡大に自信をのぞかせた。国内の13のがんゲノム医療中核病院の賛同をすでに得ていることも明らかにし、「(これらの病院は)ゼロからのスタートではなく、いきなり米国のがん患者770万人のデータをリアルタイムで解析に使うことができ、ジャンプスタートになる」と述べた。
記者会見では、がん研有明病院長の佐野武氏、慶大外科学教授の北川雄光氏、東大病院ゲノム診療部教授の織田克利氏、京大病院がんセンター長の武藤学氏らとの意見交換も行われ、孫氏は、標準治療で手を尽くした後にしか遺伝子検査を受けられない日本のがん医療の現状を変えたいと強調。
京大の武藤氏も「最初に(遺伝子)検査をすると医療費がかかると捉えられがちだが、無駄な治療を省いて患者の治療成績を向上させるという視点で、一刻も早く早い段階で検査をできるようにすべき。患者が適切な治療を受けるタイミングを奪っている」と訴えた。