またか……しかもまた愛知県か……。
そんな思いを抑えることができなかった。それは、2024年6月17日に日本赤十字社愛知医療センター名古屋第二病院(八事日赤)が記者会見を開いて公表した医療過誤事例のことだ。
「上腸間膜動脈症候群(superior mesenteric artery syndrome:SMA症候群) に対し適切な治療ができず、高度脱水が進行し心停止に至り死亡した医療過誤」とされ、資料も公開されているが、報道は一斉に研修医がSMA症候群を見逃したことが原因とした。
ここでは、医療過誤の中身については触れない。ここで取り上げたいのは、病院が記者会見を開いたことだ。
これまでの連載で何度か述べてきたように、医療事故調査の目的は再発防止であり、責任追及のために行うのではない。WHOのドラフトガイドラインでも、先月紹介したISO5665でも、その点は明瞭に述べられている。実際、厚生労働省も「責任追及を目的とするものではなく、医療者が特定されないようにする方向であり、第三者機関の調査結果を警察や行政に届けるものではない」と医療事故調査制度のQ&Aに明記している。
しかし、ここで記者会見を開き、研修医のミスであることを強調したことは、制度の趣旨に反しているのではないだろうか。病院が代読した遺族の手記は、「研修医の勝手な判断・誤診がなければ、このような結果にはなっていなかったと確信しています」と明確に述べている(CBCニュース)。これは以前述べた愛知県愛西市の集団接種会場で発生した事故と同じではないか(No.5195)。
遺族が責任の所在を明らかにしてほしいと思うのは当然ではある。誰かが責任を取る必要はある。しかし、「学習を目的としたシステム」と、「説明責任を目的としたシステム」はわけるべきだ。八事日赤は、事故調査の内容を記者会見で公表する必要はなかった。これに加え、研修医に責任があるかのような印象を与えたのは、制度の趣旨に明らかに反する。
このように、医療事故調査→記者会見→責任あるとされる者を晒す、という行為が繰り返されれば、責任逃れのため、医療事故調査が歪められ、医療安全が達成されなくなるのではないだろうか。
榎木英介(一般社団法人科学・政策と社会研究室代表理事)[記者会見][再発防止][責任追及]