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【識者の眼】「夏休みに思うこと」大沢愛子

P.61

大沢愛子 (国立長寿医療研究センターリハビリテーション科医長)

登録日: 2024-07-18

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今年の暑さは異常だ。夏になると毎年そう言ってため息をついている気がするが、年々暑さが増しているように感じる。子どもの頃には、廊下に寝転び、ひんやりとした床の感触を感じながら、窓から入ってくる夏の風や街の喧騒を愛おしく思っていたが、今はクーラーの効いた部屋から一歩出るのも嫌だし、窓など開けても熱風が入ってくるだけだ。子どもの頃のあの夏の風景はどこへ行ってしまったのかと、とても残念に思う。

こんなときに待ち遠しいのは夏休みである。我々勤務医は暦通りの仕事であることが多く、お盆も長期的に休めるというイメージはない。しかし、一般的には夏に1週間から10日程度の休みをとれることが多く、心待ちにしている人も少なくないだろう。

ひるがえってリハビリテーションの世界はどうか? 基本的にリハビリテーションには休みはない。リハビリテーションの大きな目的は「日常生活や社会生活への復帰」であり、そのときに生じている日常生活の障害に対してアプローチを行い、その影響を最小限にとどめることをめざす。このため、入院中はもちろんのこと、外来や訪問リハビリテーションにおいても、運動療法や認知訓練に加え、日常生活練習を必ず実施する。その練習の成果を生活の中で実践してもらうため、日々、練習・実践・問題点の抽出・解決法の検討、そしてまた練習が繰り返されることとなる。脳卒中や骨折などの後に回復期リハビリテーション病棟に入院する場合もあるが、多くの場合、365日のリハビリテーションが提供される。正月やお盆はもちろん、夏だろうが冬だろうが毎日練習は続く。

今や当たり前となったこの365日リハビリテーションの風景もそれほど長い歴史はなく、一昔前は土日のリハビリテーションはお休みが当たり前で、脳卒中後1〜2週間は「ベッド上安静・ギャッジアップ可」という指示も多くみられた。しかし、廃用症候群という概念が一般に浸透し、安全性に配慮した急性期リハビリテーションのエビデンスが確立されたことや急性期病院と回復期リハビリテーション病棟をもつ病院との地域連携パスなどが確立されたことで、多くの場合、早期離床・早期リハビリテーションから回復期での充実したリハビリテーションに移る流れは当たり前となっている。それでも1日に提供されるリハビリテーションは最大でせいぜい2〜3時間。より早く日常生活や社会生活に復帰するため、患者さたちは、リハビリテーション以外の時間にも、毎日休まず日常生活練習に励んでいる。不本意に発生した急な疾患や外傷による身体機能や認知機能の低下に向き合い、障害を受け入れる努力をしながら、この暑い中、休みも取らずに汗だくで治療に勤しむ患者に報いるためにも、我々リハビリテーション科医は、日常生活の先にあるQOLの向上をめざして、日々、努力を続ける必要があると考えている。

大沢愛子(国立長寿医療研究センターリハビリテーション科医長)[リハビリテーション][日常生活練習]

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