地域を「みる」ために、地域の情報を集めるにはどんな方法があるだろうか? 医師は患者を診療するときに、まず問診をしたのちに身体診察を行い、評価・計画を立てることが一般的だ。地域について何か取り組みたいと考えたときにも、まちの主観的な声、客観的な事実を情報として集めていく「地域診断」が必要となる。
地域診断には様々な方法がある。まずは文献でまちの歴史を調べ、行政が公表している統計データや地図を眺めてみることも1つだろう。日常的にできる方法としては“windshield and walking survey”がある。“windshield survey”は車でまちを巡りながら観察をする方法で、地域の範囲が広い場合、地方など移動手段として車がメインの地域で役立つ。“walking survey”はいわゆる「まちあるき」であり、徒歩のためスローに観察ができ、また環境変化も含め細かいところに気づきやすい。日常の通勤や訪問診療の移動中でも、ただ景色を見るのではなく、まちの資源に意識を向けると得られる情報も変わってくるだろう。
さらに深めたいときには、観察者の主観が反映される方法として「フォトボイス」を実践してみてほしい。フォトボイスはもともと参加型アクションリサーチの手法として考えられたもので、住民が自らコミュニティ内で写真を撮影し、それを通して対話をする手法である。地域医療の文脈では、このフォトボイスをコミュニティドクターが「ワクワク」ベースで地域診断する方法としてとらえたい。スマートフォンやSNSが普及した現代、私たちは日常的に写真を撮影するようになった。多くの人が何気ない食事や風景など、日常的に感情が動いた瞬間を写真に残している。こうして慣れ親しんでいる写真撮影というアクションを、あえて意識して実践し言語化してみることは、とても新鮮で多くの学びがあるのだ。
具体的な方法を説明しよう。フォトボイスではまず、まちあるきをしながら心が動いたものを写真に収める。時間を決めて、できれば数人でグループを組んでまちを歩きながら、まずは何枚でも撮ってみるとよい。人や建物、街並みやお店、植物や道路の様子など、様々なものに注意を向ける。写真を撮ろうと思ってまちを歩くと、感覚が研ぎ澄まされ普段は見過ごしていた些細な風景にも敏感になる。こうして何枚かの写真を集めたら、そこから1〜3枚程度を選ぶ。そして写真に写っている事実、どうして心が動いたのか、写真を通して考えた自分の解釈や考えを言葉にし、それを通して対話をしていく。
同じ場所を歩いても、人が違えば見方や気づきが異なることを実感でき、まちの新しい魅力や課題、疑問点にも気づくことができる。ワクワクすることを見つけて行動していくことが、AARサイクル(見通し・行動・振り返り)のはじまりとして地域活動のきっかけになるのだ。地域医療に興味があり、まちのことを知りたいと思ったら、カメラを持って一歩外に飛び出してみることから始めてみよう。
坂井雄貴(ほっちのロッヂの診療所院長)[地域医療][コミュニティドクター][地域診断][フォトボイス]