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【識者の眼】「認知症の人の外出とトイレの問題」大沢愛子

大沢愛子 (国立長寿医療研究センターリハビリテーション科医長)

登録日: 2024-10-23

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10月になって真夏日続出とは信じられない気候だが、暑かった夏もようやく終わり、そろそろ秋の行楽シーズンだ。身体機能の維持や認知面の賦活を目的に、認知症の人と家族介護者に外出活動を勧めることが多いが、その際に問題となるのがトイレである。

「排泄コントロール」や「トイレ動作」は、日常生活動作評価法のbarthel indexやfunctional independence measureにも含まれる基本動作である。種々の介護用パンツやおむつ用品などが開発されている現代においても、失禁や失便があれば、家族とともに外出するのは容易ではない。その理由は、臭いの問題や、外出先で何度もおむつなどを交換する煩わしさなど、想像に難くない。一方、トイレ動作ができなくなることもまた、外出を妨げる大きな要因だ。

私たちがほぼ無意識に行っているトイレ動作は、ベルトを外す、チャックをおろす、スボンをおろす、またはスカートをたくし上げる、下着を下げる、便座の蓋をあける、便座に座る、用をたす、陰部や肛門を洗浄または紙で拭く、下着を上げる、スボンを上げる、またはスカートをおろす、チャックを上げる、ベルトを締める、水を流す、手を洗うなど、実に複雑な工程からなる。遂行機能障害や失行症があると、トイレに行くべきタイミングを逃したり、どのような手順をふめば排泄できるかがわからず、服や下着の処理に手間取り、間に合わずに失敗したり、トイレットペーパーの使い方がわからなかったり、排泄物を拭くことができず下着や洋服を汚したり、水を流し忘れたりする。一方、視空間認知障害や構成障害があると、床と便座の境目がわからなかったり、便器と身体の位置関係を調整することが難しく、便器内に排泄できずに床を汚したりする。

待ち合わせができないことも大きな問題だ。性別の異なる介護者がほんの少しトイレに入っている間に、待ち合わせ場所から本人が移動してしまい、行方知れずになることがよくある。「トイレに行くから、ここで待っていて」という約束を覚えていることができず、相手を探し回ったり、家に帰ろうとして誤った電車に乗ってしまう。遠くで見つかることも多く、名古屋駅で待ち合わせて博多駅で見つかったケースなどもある。

そんなときに役立つのがバリアフリートイレである。高齢者や障害者など、本当に必要としている人が、必要な補助具や介護者とともに利用できるトイレのことをいい、介護者と一緒に入れるので安心だ。トイレ動作ができれば、新幹線や飛行機内のトイレを活用する方法もある。新幹線や飛行機は閉鎖空間であり、次の到着地まで時間があれば、トイレの後に少しくらい迷っても安心だ。このように認知症の人と家族介護者にとってトイレ問題はとても大きな課題だが、周囲の人が知恵を絞って認知症の人にも使いやすいトイレ環境を整備することで、多くの人が外出を楽しむ機会を持ってもらえるとうれしい。

大沢愛子(国立長寿医療研究センターリハビリテーション科医長)[認知症][家族介護者][トイレ環境]

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