子ども虐待対応の中で、子どもの安全を確保するために緊急的に子どもを保護者と分離して保護する一時保護は、児童相談所がその役割を担っている。この一時保護の判断はもともと児童相談所が行ってきた。
しかし、一時保護は子どもを保護者から分離して、その行動の自由などを制限するものであるため、司法審査の導入が求められてきた。2011年の児童福祉法改正により、「2カ月を超えて保護者の同意なく一時保護を継続する場合、都道府県児童福祉審査会の意見をきかなければならない」とされた。
さらに2017年の児童福祉法改正では、「都道府県児童福祉審査会ではなく、家庭裁判所の承認を得なければならない」こととなった。
しかし、国連子どもの権利委員会は2019年に、日本政府に対する総括所見を採択し、その中で「子どもを家族から分離するべきか否かの決定に関して、義務的司法審査を導入すること」という要請が示され、一時保護の開始時にも司法審査を行うことが求められた。そして、2022年の児童福祉法改正で一時保護の開始についても司法審査が導入されることとなった。
一時保護の開始にあたって、2025年7月以降は家庭裁判所に対して「児童相談所長又は都道府県知事が一時保護の開始前もしくは開始から7日以内に、一時保護の理由及び必要性があると認められる資料を添えて、管轄の地方裁判所、家庭裁判所又は簡易裁判所の裁判官に一時保護状を請求しなければならない」こととなる。
子ども虐待対応の中で、医療機関からの情報は重要視されることが多い。そのため、私たちは子ども虐待を疑った場合に、その客観的な情報を正しく記録し、虐待医学的な根拠に基づく意見を児童相談所に提供できるようにしていかなければならない。特に今後、一時保護の開始に司法審査が導入されると、さらにその役割は重くなる。
子ども虐待を疑った際にどのような情報を記録すべきか、また虐待医学に基づく所見の解釈などについては、医師臨床研修指導ガイドラインにも記載のある、日本子ども虐待医学会の主催する「医療機関向け虐待対応啓発プログラムBEAMS」で学ぶことが可能である。このプログラムは、医師臨床研修だけでなく、2024年の診療報酬改定において小児かかりつけ診療料の算定における施設基準の中で「虐待に関する適切な研修」に該当するものでもある。未来の礎である子どもを守るため、子どもに関わるすべての医師に子ども虐待医学に基づく虐待対応を学んでもらいたい。
小橋孝介(鴨川市立国保病院病院長)[一時保護][子ども虐待][子ども家庭福祉]