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【識者の眼】「健康省エネ住宅の重要性」今村 聡

今村 聡 (医療法人社団聡伸会今村医院院長)

登録日: 2025-01-16

最終更新日: 2025-01-16

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医師にとって治療は当然だが、予防も重要な任務である。2008年よりメタボリックシンドロームに着目し、生活習慣病の予防・改善を目的として特定健診・保健指導が開始された。本人の行動変容を通して、食事・運動・禁煙・適度のアルコール摂取等、生活習慣を改善し、血圧・血糖・脂質等を正常化していこうという取り組みであり、これらの重要性は論をまたない。

一方、生活環境病という概念が、最近提唱されつつある。この生活環境とは、住宅環境、ことに適正な室温の維持を中心としている。英国では、法律で高齢者の住宅は、通年、室温を18℃以上に保たなければいけないと決められている。また、WHOは、世界に対して冬季の住宅の室温を摂氏18℃以上に保つよう強く勧告を行っている。

国土交通省の調査事業(スマートウエルネス住宅等推進調査事業:2014〜)のデータによると、北海道と2、3の県のみがこの基準を超え、日本のほとんどの府県はこの基準を下回っており、特に西日本のほうが冬季の室温が低い傾向にある。この原因の1つは日本の既存住宅の断熱性能が先進国でも最低レベルであり、北海道では二重サッシや寒さ対策が徹底しているからだと思われる。冬季に脳血管疾患、心筋梗塞の発症率の増加が最も低いのが北海道で、逆に西日本で高い傾向がみられる。室温が低いことが、健康上の大きなリスクになっていることは、この例からも推測される。

さらなるデータについても、先の国土交通省の調査事業で詳細に明らかにされ、その結果はHYPERTENNSIONNを始め様々な医学論文として13篇(現時点で)報告されている。具体的には、室温が低いほど血圧上昇や大きな日内変動が起こるほか、脂質異常、夜間頻尿、転倒、睡眠の質の低下等々、様々な健康上の悪化因子となっており、医療、介護へのリスクとなっている。断熱性能の悪さは、夏季には屋内の熱中症の発症の重要なリスクとなっており、熱中症高齢者の増加が、救急医療現場への大きな負荷となっている。

一方、断熱改修を行った住宅に関しては、これらの改善が有意に認められている。医師をはじめとして医療者は、患者の血圧をはじめとしたバイタルデータはしっかりと把握するが、高齢者が生活する住環境については漠然としか把握していないのではないだろうか。在宅医療が増加していく中で、医療者は患者とともに様々な影響を与える住環境(温度、湿度、屋内温度格差等々)に目を向け、室内の適正温度(冬季18℃以上)の確保を指導できるよう、生活環境の指導を行っていくことも必要だと考える。

今村 聡(医療法人社団聡伸会今村医院院長)[予防][生活環境]

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