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【識者の眼】「医療の高度化、働き方改革、人口減少そしてDX」藤田哲朗

藤田哲朗 (医療法人社団藤聖会理事、富山西総合病院事務長)

登録日: 2025-03-18

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昨今の病院経営業界で最もホットな話題といえば、間違いなく「医療DX」でしょう。医療の高度化は日進月歩で進み、看護・ケアの質向上への要求も高まる一方です。その結果、臨床の現場では、取り組むべき業務が雪だるま式に増えています。

診療報酬上の加算や医学管理料として評価されているものも一部はありますが、「標準的に行うべき」とされながらも、財源的な裏づけがない業務も少なくありません。現場のスタッフは、限られた人員の中で増え続ける業務をこなさなければならない上、「働き方改革」によって、投入できる労働時間の総量はむしろ減少している場合すらあります。

このような業務の増大に対し、この15年ほどのトレンドは「医療有資格者でなければできない業務以外は、補助スタッフを雇用し、タスクシフトしましょう」というものでした。タスクシフト自体は今後も積極的に進めていくべきですが、問題はシフトした業務を担う受け皿です。一昔前までは、社会全体で労働者が余っており、非資格職である事務職員や看護補助者は「良質な人材を低賃金で雇用できる」という状況が続いていました。しかし、今は生産年齢人口が減少局面にあり、むしろ非資格職の採用のほうが、他業界との人材獲得競争が激しくなっています。たとえば看護師採用は医療・介護業界内の競争ですが、非資格職の採用となると、サービス業や製造業といった異業種とも競争しなければなりません。かつてのように、「雑務はパートの人を雇ってやってもらえばよい」という安易な発想は、通用しなくなっています。

このような環境下では、業務プロセスそのものにメスを入れ、本質的でない仕事自体が発生しないような仕組みに見直していくことが必要になります。そこで重要になってくるのが、「DX」です。DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用して業務プロセスや組織構造を変革し、新たな価値を生み出すことです。

DXを進める上で課題になるのは、投資のためのお金をどこから調達するかです。既に取り組んでいる医療機関の方は共感していただけるかと思いますが、「『DX』ってどえらい出費(Doerai eXpenses)の略でしたっけ???」と言いたくなるほど出費が大きい。その上、診療報酬で手当てされているものは少ない。そしてこれからも、診療報酬や介護報酬本体の引き上げは期待できない。そこで活用したいのが国や都道府県等の補助金です。一定の自己負担の発生や、補助金事務の負担もありますが、補助金を「現実的な選択肢」と前向きに考えたほうがよいと思います。

「うちはDXとか無理だから」と現状維持していると、自腹を切ってでもDXを進めている医療機関との間で生産性に大きな差が生まれていきます。医療の質と効率を両立するには、変化を恐れず、新たな技術に積極的に挑戦することが重要ではないでしょうか。

藤田哲朗(医療法人社団藤聖会理事、富山西総合病院事務長)[病院経営][働き方改革医療DX

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