(概要) 政府は社会保障費の伸びを「目安」の年間5000億円に抑制する2016年度予算案を閣議決定した。中でも厳しい薬価制度改革が行われる医療分野は0.5%増に抑制された。
政府が12月24日に閣議決定した2016年度厚生労働省の社会保障関係予算(表1)は、前年度比1.4%(4126億円)増の29兆8631億円となった。文部科学省なども含めた政府全体の社会保障関係予算は前年度比1.4%(4997億円)増となり、財務省の財政制度等審議会建議が求めている年間5000億円増の範囲内に“機械的”に抑制された。
●18年度同時改定もマイナス改定濃厚に
政府は社会保障費の伸びを今後3年間で1兆5000億円に抑制する方針を打ち出しているが、単年度予算額に言及はなかった。しかし、診療報酬改定年度かつ初年度で年間5000億円に抑制されたことから、今後2年間も同様の予算編成方針がとられる可能性が高まったと言えそうだ。また、18年度には診療報酬、介護報酬の同時改定が控えるが、どちらも厳しい改定となることが予想される。
各分野別に見ると、医療関係予算はわずか0.5%増の11兆5438億円。市場拡大再算定制度や長期収載品を対象とした厳しい見直しが行われる次期薬価制度改革で約1700億円の削減額を捻出し、社会保障4分野で最も低い伸びとなった。
このほか、厚労省が概算要求時で2252億円を計上していた、成長戦略や骨太方針の実現に充てる「新しい日本のための優先課題推進枠」も1191億円にとどまるなど、全体を通じ財政再建に向けた政府の強い意志が現れた予算案となった印象だ。予算案を巡っては1月中旬から通常国会で審議が行われる。
●「1億総活躍」実現に重点
政府は「1億総活躍社会」の実現に向けた取り組みに2016年度予算を重点化している。これに該当する医療関係施策を中心に解説する(表2)。
認知症施策には全体で57億円を充てる。具体的には「認知症施策推進総合戦略」(新オレンジプラン)に基づき、発症初期に本人や家族を支援する「認知症初期集中支援チーム」や、認知症の専門医療機関である「認知症疾患医療センター」を拡充する。
「がん対策の推進」には356億円を計上。昨年12月に閣議決定された「がん対策加速化プラン」に沿って、3本柱である「予防」「治療・研究」「がんとの共生」を進める。予防では、かかりつけ医が未受診者にパンフレットを配布するなどして、かかりつけ医によるがん検診や精密検査の受診勧奨を強化。治療・研究では、基幹的な機能を持つがん診療連携拠点病院に遺伝カウンセラーや臨床研究コーディネーターを配置する。がんとの共生では、関係機関と連絡・調整を行う「地域緩和ケア連携調整員」の育成などにより、地域の緩和ケア提供体制を整備する。
「予防・健康インセンティブの取り組みへの支援」は、日医や経済団体などで構成される「日本健康会議」の取り組みを支援するもの。「高齢者の低栄養防止等の推進の支援」には3.6億円を計上した。高齢者の特性を踏まえた保健指導を実施する。
このほか、4月に行われる診療報酬改定は全体改定率マイナス0.86%で決着した。過去の改定と経年比較ができる「実質」ではマイナス1.03%だ。「『かかりつけ医』による医療提供体制の構築」は概算要求の4.5億円から2100万円に大きく引下げられた。
【記者の眼】新規の施策で注目されるのが「医薬品の広告・販売に関するルール遵守の徹底」(予算額1000万円)。現場の医師に対する製薬企業の営業活動の状況を協力医療機関から直接収集し、違反事例を早期発見するとしている。(K)