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磯巾着 [エッセイ]

No.4785 (2016年01月09日発行) P.66

近藤武史 (神戸大学大学院医学研究科法医学分野講師)

登録日: 2016-09-08

最終更新日: 2017-01-31

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  • かの有名な「New England Journal of Medicine(NEJM)」に「Images in Clinical Medicine」という写真と短いキャプションがつくコーナーがある。NEJMの論文は小生の能力ではもちろんすべては読みこなせないが、毎週このコーナーのみは楽しみにしている。毎週2症例、印刷される症例と電子版のみの症例がある。電子版のみの症例には、ページ番号にeがつく。

    2006年、このコーナーに「肺動脈に発生した乳頭状線維弾性腫(papillary fibroelastoma)」という症例を投稿し、受理された1)。本文はわずか122 wordsの短いものだが、査読期間は約1年と長いものであった。別の症例を投稿した際には、数週間もしないうちにリジェクトの返事がきた。こういう場合は、返事がないことがよい兆候のようだ。

    翌2007年1月に掲載となったが、筆者の場合は残念ながら印刷はされず、電子版のみの掲載になった。いろいろ身辺の変化もあり、この頃を振り返ると、結構困窮していたように思う。そういう中、ささやかな業績ではあるが、非常に嬉しい知らせでもあった。

    心臓の腫瘍(様病変)である乳頭状線維弾性腫は、英文の成書にもsea anemoneのようであると記載されており、磯巾着のようなきれいなマクロ像を呈する。肺動脈を閉塞するような腫瘍であったが、驚くことに循環器系の症状がなかった。水に浸すと、本当に磯巾着のようであった。心臓血管外科医の見事な写真を共著者として投稿した。この腫瘍(様病変)はムコポリサッカライドから成っているとされる。良性でavascularな乳頭状病変であり内皮に覆われるが、その成因には諸説ある。血栓の出来損ないのようなもの、という説もある。
    長い査読期間の後に、突然deputy editorの女性医師から、以下のようなメールがきた。

    “A few clarifications to your Image in Clinical Medicine are required.
    1)Why was the electrocardiogram, which discovered the tumor, performed?
    2)What on the EKG lead to the discovery of the tumor?
    3)Any further follow-up? Please respond within 24 hours.
    Your attention to these urgent queries is greatly appreciated.”

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