▼使われないまま眠っている水銀を「退蔵水銀」と呼ぶそうだ。そして、退蔵水銀を一番多く抱えているのが医療機関だという。その理由は、水銀を使用した「血圧計」と「体温計」。電子血圧計、電子体温計の普及で“現役引退”した医療機関も多いとみられるが、どれだけ廃棄されたかは不明である。
▼こうした背景もあってか、清掃工場で多量の水銀が検出されると医療機関が排出元の“容疑者”にされることがあるという。東京都の清掃工場では近年、水銀の規制量超えによる焼却炉の停止が年に複数回起きており、疑いの目が医療機関に向けられていた。
▼そんな不名誉な疑惑を晴らそうと、東京都医師会は2012年、退蔵水銀の自主回収に着手。その結果、14年までの3年間で血圧計7818本、体温計5662本を回収したという。東京都だけでこの量だから、全国ではまだ膨大な量の水銀が眠っているはずだ。ただし、都医師会の橋本雄幸理事は「残念ながら、すべての医療機関がきちんと水銀の保管・廃棄ができているわけではない。閉院する際に家族が不燃ごみとして捨てるケースもあるようだ」と話している。
▼確かに水銀の廃棄は「面倒」だ。回収した水銀は気化しないよう保管する必要がある。しかも国内できちんと処理ができるのは、北海道にある業者1社のみであり、水銀をそこまで運ばなければならない。医療機関の退蔵水銀の処理には、公的な支援や都道府県医師会レベルでの事業展開が必須となるだろう。
▼一方、水銀の適切な廃棄は国際的課題でもある。昨年10月、水銀の製造・使用・廃棄に関する包括的規制を定めた「水銀に関する水俣条約」が締結され、医療機関を含む事業者は、水銀に関して今まで以上に大きな責任を負うことになった。個々の医療機関にも廃棄物処理への意識強化が求められている。