【Q】
大勢の前で発表するときなど,緊張すると無意識のうちに咳払いをします。これには理由があるのでしょうか。 (東京都 F)
【A】
緊張した際に,咳払いをするというのは日常よくみられる現象であり,それは緊張を紛らわせているかのようにもみえます。辞書を紐解いてみると,咳払いとは「スル合図や人の注意をひくために,わざと咳をすること」『大辞林 第三版』とあります。ここでは,「咳払い」は随意的なものとして説明されていますが,通常緊張した際に出る咳払いは,無意識に出るものだと思います。
それでは,咳払いはどのようにして起こるのでしょうか。緊張すると喉が渇くことは,よく経験されます。これは,交感神経興奮による唾液分泌量の低下の影響が考えられます。口渇感が増す結果,咳嗽と同時に咳払いを起こしやすくなります。
同様に,ストレスがかかる状況で,不安や緊張から咽喉頭異常感を自覚する場合があります。この場合,咽喉頭の異常感を取るために無意識的に咳払いをすることが考えられます。「喉に何か詰まっている」「喉がイガイガする」などの症状の自覚があるものの,症状を説明しうる器質的病変などの客観的所見がみられない場合,咽喉頭異常感症と診断されます。これは,従来,ヒステリー球とも称されていたものですが,ストレスや心理的葛藤が身体化して生じる転換症状の1つとされ,ストレス状況下で起こりやすいとされています。
そのほかの特殊なタイプの咳払いとして,チック障害が挙げられます。これは突発的で,急速反復性,非律動性の常同的な不随意運動あるいは発声であると定義されます。チック障害は,咳や咳払いとして表現されることがあり,これを咳嗽性チックと呼びます。チック障害の1つであるトゥレット症候群の成人患者では,小児期よりは徐々に弱まるものの,成人期まで持続するような咳嗽を呈することがあります(文献1)。このように,チック障害も無意識に起こる咳払いの原因となります。
以上,心因的な関与が考えられる咳払いについて述べましたが,身体疾患の鑑別も必要です。咳払いの原因となる身体疾患としては,胃食道逆流症があります。胃食道逆流症では様々な咽喉頭症状を伴いますが,咳払いのほか,咽頭痛,咽喉頭異常感,発声困難感などがみられます。また,感冒罹患後に咳嗽が残ることがあります。感染後咳嗽と呼ばれますが,咳が出そうになり,つい咳払いしてしまうことがあります。そのほかに,後鼻漏を含む多くの疾患や喫煙なども,咳払いを誘発する可能性があります。前述した咽喉頭異常感についても,まずは悪性腫瘍を含む器質的疾患を除外すべきです。
1) Goetz CG, et al:Neurology. 1992;42(4):784-8.