心因性難聴は転換性障害の症状のひとつである。日本聴覚医学会用語集では「きこえの障害のなかで,器質性のみの障害と考えにくい場合のうち精神的な原因によっておこるきこえの障害」とされている。小児の心因性難聴は8~10歳の女児に多い。学校健診で難聴を指摘されて医療機関を受診することが多い。日本耳鼻咽喉科学会学校保健委員会では,定義として①器質的疾患はないか,あっても本症状の原因ではない,②難聴の症状はないことも,あることもある,③聴力検査で聴力レベルは必ず異常値を示す,④発症の背景に心理的要因がある,の4項目を挙げている。
耳への音響暴露,外傷,中耳炎が「きっかけ」となることがある。心因には学校,友人とのトラブル,家庭のトラブル(転居,離婚など)などの様々な背景因子がある。発達の遅れ(自閉症スペクトラム障害,注意欠如・多動性障害など)などの内因が関与していることがある。近年では聴覚情報処理障害(auditory processing disorder)との関連も指摘されている。成人の心因性難聴は若年の女性に多い。成人では詐聴との鑑別が必要である。
主な症状は難聴であるが,難聴の自覚がないこともある。難聴は両側性が多いが,音響暴露,外傷,中耳炎などのきっかけがあると一側性のこともある。一側性の場合,突発性難聴との鑑別が必要である。得られた聴力検査結果と会話聴取能に隔たりがあることが大切な所見である。純音聴力検査で両側高度難聴であっても,通常どおりに会話ができることが特徴である。
難聴の種類は感音難聴が多いが,伝音難聴,混合性難聴を示すことがある。皿型の聴力像を示すことがあるが,そのほか水平型,聾型,高音漸傾型を示す。高音急墜型,dip型は少ない。難聴の程度は50~90dB程度の中等度〜高度難聴を示すことが多い。
心因性難聴は純音聴取能に比べ,語音聴取能がよい。
Jerger分類のⅤ型は機能性難聴(心因性難聴)に特異的である。
純音聴力検査結果が高度,重度難聴でもその閾値以下で耳小骨筋反射が認められれば,心因性難聴を疑う。正常範囲は対側刺激で70~100dBである。
歪成分耳音響放射(distortion product otoacoustic emission:DPOAE)は純音聴力レベルが35dB以上になると検出されない。純音聴力検査で中等度以上の難聴があり,DPOAEが検出された場合,心因性難聴を疑う。
クリック音を用いた検査では,純音聴力検査2000~4000Hzの聴力レベルより10dB程度高い閾値でⅤ波が検出される。聴力閾値の推定に用いられる。
250~8000Hzの聴力閾値が推定できる。骨導で測定することもできる。
小児の知能検査にはWISC-Ⅳがある。全検査IQのほか,言語理解指標,知覚推理指標,ワーキングメモリー指標,処理速度指標の評価が行える。そのほか,新版K式発達検査(適応:生後100日~成人)などを行う。
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