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認知症と妄想性障害の鑑別

No.4724 (2014年11月08日発行) P.52

宇野正威 (吉岡リハビリテーションクリニック院長)

登録日: 2014-11-08

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

認知症の外来診療において認知機能は比較的良いのに妄想が強い症例に稀に出合いますが,認知症と妄想性障害の鑑別方法について,吉岡リハビリテーションクリニック・宇野正威先生に。
【質問者】
田平 武:順天堂大学大学院認知症診断・予防・ 治療学講座客員教授

【A】

認知症は,進行するに伴い,自分を取り巻く状況を正しく理解し,何が求められているかを判断するという基本的な認知機能が衰えます。理解力が低下すると,状況を一方的に思い込み,周囲に対し被害的になりやすくなります。そのため,「認知症の行動と心理症状」の中で妄想の出現頻度は高いのですが,その内容は妄想性障害の妄想とは違いがあります。

[1]認知機能低下のない妄想性障害
妄想内容は多彩ですが,次の2例は比較的よくみられる症例です。
症例1:一人暮らし。ドアの外から,「お金がなくなり,そのうち自殺するよ」という,自分を家から追い出そうとする男と女の声が聞こえる,という被害妄想。
このような症例は,未婚で,一人暮らしの,非社交的な女性に多く,しばしば難聴を伴うという特徴があり,遅発性パラフレニアと呼ばれることもあります。
症例2:「自分の身体からばい菌が出て,バスの乗客にうつるらしい。周りの人が咳払いして,ばい菌を出そうとしているのでわかる」という,心気・関係妄想。
これらの妄想の特徴は,対象が身近な人ではなく,社会の不特定の人たちであることです。社会から迫害されるという内容であり,統合失調症の妄想に近い特徴を持っています。

[2]認知症の妄想
認知機能が比較的良い認知症であっても,妄想内容は体系的でなく,身近な人を対象にすることの多いことが特徴的です。認知症の基礎疾患により多少差はあります。
(1)アルツハイマー病の“盗られ妄想”
顕著な近時記憶障害により,自分の持ち物をしまい忘れることが非常に多いことが背景にあります。その物がみつからないと,直ちに「盗られた」と直感し,周囲の特定の人(主に介護者)を責めます。
対象物が日常的な物であっても,り方の激しいことが特徴的です。一人暮らしの場合は,「誰かが入って来て,盗って行った」と,警察に繰り返し訴えることがありますが,その単調な内容から,鑑別診断は難しくはありません。
(2)レビー小体型認知症の幻覚妄想状態
盗られ妄想は,アルツハイマー病の場合とほぼ同じです。問題になるのは,幻視・幻聴と,時に軽度の意識の変容(注意と明晰性の低下)を伴いながら,統合失調症様の幻覚妄想状態を呈した症例です。
症例3:「夜中に某宗教団体の人がいろいろな楽器を持ってきて音楽を鳴らすので眠れない」「嫌がらせをされている」「監視されている」という,幻聴と被害妄想。
症例4:「孫が何か悪いことをしたらしく,警察に追われている」という,被害妄想か作話か判然としない体験。
幻聴・妄想の内容は,被害的であっても断片的で,体系をつくらず,しばしば空想的です。内容が変わりやすく,妄想なのか作話なのか判然としないことも多くあります。鑑別の難しいときもありますが,基本的には自分と家族への関心にとどまり,対象が広く外の世界へ広がり,体系的な内容に発展することはありません。

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