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レビー小体型認知症のうつに 対する薬物療法

No.4739 (2015年02月21日発行) P.60

水上勝義 (筑波大学大学院人間総合科学研究科健康社会学・ストレスマネジメント分野教授)

登録日: 2015-02-21

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

レビー小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB)はうつ病と誤診されていることが少なくありません。また,DLBと診断されても,抑うつ状態を示すことも少なくありません。この際,ドネペジルを主とするコリンエステラーゼ阻害薬や抑肝散が効果を示すことはありますが,思ったほどの効果は得られません。
DLBの抑うつ状態への薬物療法について,特に高齢のDLB患者を中心に,筑波大学・水上勝義先生のご意見を。
【質問者】
小阪憲司:横浜市立大学名誉教授

【A】

ご指摘の通り,DLBは経過中およそ半数の例でうつ状態を認めます。大うつ病エピソードを満たすうつ状態も3割程度の患者にみられるとされます。DLBの症状が出そろわない初期段階でもうつ状態はしばしばみられ,単なるうつ病として治療されていることがよくあります。しかしDLBは,初期あるいは前駆期から薬剤過敏性がみられることが少なくありません。薬剤過敏性は抗精神病薬に限らず抗うつ薬でもみられます。
したがって,高齢者のうつ病を診療する場合は,必ずDLBを念頭に置き,DLBが考えられる場合は,いきなり抗うつ薬をそれ相応の量で処方することは控え,ドネペジルや抑肝散(加陳皮半夏など)を考慮するのも一法です。その上で,うつ状態に改善がみられない場合,抗うつ薬の使用を考慮します。
ところが,DLBの抗うつ薬治療に関しては二重盲検比較試験などの研究報告はありません。これまでのところ抗うつ薬が奏効したとする少数の症例報告が散見されるのみであり,DLBの抗うつ薬治療についてはエビデンスがないのが現状です。DLBのうつ状態に対する治療において最も重要なことは安全性の配慮です。
既に薬剤過敏性の問題には触れましたが,DLBでは脳内のアセチルコリン濃度が著しく低下しているため,抗コリン作用が強い三環系抗うつ薬や四環系抗うつ薬の使用でせん妄のリスクが高まります。また,DLBは起立性低血圧を高頻度に認めますが,三環系抗うつ薬などα1受容体阻害作用を持つ薬剤は起立性低血圧を悪化させるリスクがあるので注意が必要です。DLBはうつ症状と精神病症状が併存することが多いため,スルピリドが投薬されている例を時にみかけますが,スルピリドをDLBに使用すると錐体外路症状による歩行障害の悪化などがみられやすいので,やはり注意を要する薬剤と言えるでしょう。
以上から,抗うつ治療を行う場合,副作用のできる限り軽いものを少量から慎重に用いるという,高齢者に対する薬物療法の原則をさらに徹底して遵守することが重要です。薬剤としては,セルトラリンをはじめとする選択的セロトニン再取り込み阻害薬(selective serotonin reuptake inhibitor:SSRI)やデュロキセチンやミルナシプランなどのセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(serotonin-norepinephrine reuptake inhibitor:SNRI),ミルタザピンなどを最低用量のさらに半量程度から開始し,効果と副作用を十分評価しながら必要に応じて慎重に増量します。それでも少量のSSRIやSNRIで振戦や消化器症状を認めたり,ミルタザピンで日中の眠気やふらつきなどが発現する場合があります。
抗うつ薬の副作用が著明にみられる難治例では,電気痙攣療法や経頭蓋磁気刺激などの特殊身体療法が奏効する場合があるので,これらの治療の可能性について実施医療機関に相談するのも1つの選択肢です。

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