No.4766 (2015年08月29日発行) P.52
松本 順 (横浜市立大学救急医学)
森村尚登 (横浜市立大学救急医学教授)
登録日: 2015-08-29
最終更新日: 2016-10-26
緊急被ばく医療とは,原子力災害対策のひとつで,被ばくした傷病者もしくは放射性物質による汚染を伴う傷病者に対する医療のことである。外部被ばくのみで,放射性物質による汚染がない場合には通常の救急診療を行う。緊急被ばく医療では,通常の救急診療に加えて,放射性物質による汚染管理,二次被ばく防止のための放射線防護,創傷汚染や内部被ばくへの処置などを行う必要がある。そのためには,医師・看護師・診療放射線技師らだけでなく,放射線管理要員の協力も重要であり,チーム医療の実践が必須である(文献1)。
1999年の東海村JCO臨界事故をふまえ,2001年に「緊急被ばく医療のあり方について」が示された。救急医療と同じ概念で初期,二次および三次被ばく医療機関(現在,東日本では放射線医学総合研究所,西日本では広島大学が指定)が定義され,原子力施設立地県,その隣接県はそれに基づき整備を進めていた。しかし,2011年3月11日に発生した東日本大震災に伴う福島第一原発事故は,それまでの想定を大きく超えるものであった。原子力施設立地県である福島県の複合的な被災により,システムは機能しなかった。
そのため,現状の課題は,整いつつある救急・災害医療体制を基盤とした,複合災害にも柔軟に対応できる緊急被ばく医療体制の再構築と,放射線の不可視という特性からくる住民・医療スタッフに生じる不安・ストレスに対応するためのリスクコミュニケーションの確立であり,多くの医療者の基礎知識獲得が必須である。
1) 被ばく医療関係の指導参考資料作成に関する検討委員会:医学教育における被ばく医療関係の教育・学習のための参考資料. 独立行政法人放射線医学総合研究所, 2012.