覚醒剤精神病はメタンフェタミンの乱用によって統合失調症の幻覚・妄想と区別できない精神病症状を生じる。治療も統合失調症治療に準じ,線条体や側坐核でのドパミン放出に拮抗する抗精神病薬による治療がなされる。統合失調症も幻覚・妄想で特徴づけられ,覚醒剤精神病と類似したドパミンシステムの異常があると考えられている。幻覚や妄想などの陽性症状だけでなく,統合失調症でみられる感情の平板化などの陰性症状や,ワーキングメモリーなど認知機能障害も両疾患で認められ,臨床症状や薬理学的特徴において,両疾患は酷似している。国際的な診断基準ICD-10やDSM-5は症候学的観点に基づいて診断することから,両疾患を適切に鑑別することは難しいのが現状である。
筆者の教室の山室ら(文献1)は,日常診療で簡易に検査を行える近赤外線スペクトロスコピー(near-infrared spectroscopy:NIRS)を用いることで,臨床症状からは鑑別に苦慮する覚醒剤精神病と統合失調症について,判別できる可能性を報告した。
NIRSでは,非侵襲的な近赤外線の散乱光を用いてヘモグロビン値を測定することで,大脳皮質の脳血流の変化を知ることができる。年齢・性別など,背景の類似した,神経症状評価において精神症状に有意な差がない覚醒剤精神病と統合失調症を比較した場合,統合失調症では,過去の報告と同様に,前頭葉の賦活課題である言語流暢性課題による右外背側前頭前野での酸化ヘモグロビンの変化はなかったが,覚醒剤精神病では,同部位の酸化ヘモグロビンは統合失調症と比較して有意に増加していた。
1) Yamamuro K, et al:Sci Rep. 2015;5:12107.