50歳代の女性。「先生、会社の人間ドックで胸の写真も含めてすべて問題なしとなりました」と含み笑いで患者さんが入って来た。彼女は、漢方薬を飲んでいるキャリアウーマンだ。人間ドックは会社が毎年社員に半ば強制的に施行しているもので、都内の有名な人間ドック専門のクリニックで行われた。
なぜ含み笑いかというと、彼女は数年前に子宮癌の手術を経験し、そしてがんは取り切れなかったからである。傍大動脈リンパ節にもがんがあり、また肺にもCT検査では多発性の転移が認められているのだ。会社にはがんのことは内緒にしている。手術、抗癌剤、放射線療法は都内のがん拠点病院で行われていた。すごく元気なのに、「もう次の手立てはない」とすでに言われている。「何かあれば緩和ケア科にでもお願いするしかない」というのが、その病院の主治医の意見だそうだ。
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