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いつか来ること [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.84

髙橋 悟 (日本大学医学部泌尿器科学系主任教授)

登録日: 2017-01-03

最終更新日: 2016-12-26

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当たり前ですが、人はいつか死んでいきます。たとえ多くの人たちから愛された人でも。

仕事柄、多くの方々を見送りましたが、その人柄に触れた場合、悲しみと同時に何と人生は儚いものかと感じます。しかし、医療に携わる我々でさえ、それが自分にとって現実になる時まで、真剣には考えていないのではないでしょうか。あるいは考えないほうが良いのか。箴言集で有名な、ラ・ロシュフコーは「太陽も死も見つめることは出来ない」と言いました。

私の好きな「男はつらいよ」の寅さんは、病のマドンナから「人は何故死ぬのでしょう」と問われて、「まぁ、こう人間がいつまでも生きていると、陸(おか)の上がね、人間ばっかりになっちゃう……で、満員になって押しくらまんじゅうしているうちに隅っこにいるやつが、お前どけよと言われて、あーっなんて海の中へバシャンと落っこって……死んじゃうんです。まあ結局、そういうことになってんじゃないですかね、昔から」そしてこう付け加えます。「うん、まあ深く考えないほうがいいですよ。それ以上は」。また甥の満男から「おじさん、人って何故生きているのかな」と聞かれ、「おまえ、難しいこと聞くなあ。生まれてきてよかったなって思うことが、何べんかあるじゃない。そのために人間生きているんじゃないのか?」

こうしてみると寅さんは心優しい、でもどこか冷めた眼を持つ詩人ですね。実際、渥美 清さんは生前俳号風天として余韻のある句を詠んでいます。「ひとり遊びなれし子のシャボン玉」「好きだから強くぶつけた雪合戦」「コスモスひょろりふたおやもういない」。

ところで寅さんは、テレビ版「男はつらいよ」の中で一度亡くなっています。奄美大島でハブに噛まれて。若き山田洋次監督はシナリオを書くのが大変になって死んだことにすれば、終わりにできると思ったそうです。でも苦情が殺到して、寅さんは映画の中で復活しました。人は、生前愛されていれば、死んでも残された人たちの心の中で生き続けることができる。

寅さんの最終回は幼稚園の用務員になって子どもたちと遊んでいる最中に心臓発作で亡くなるはずだったと、どこかで読んだことがあります。相応しい気もするけれど、どうかなあという気もします。たぶん、そうなる前に寅さんは自分から海に落ちたのかもしれませんね。

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