イラク軍によるイスラム国(IS)の拠点モスルの奪還作戦が最終段階に入った。普通、本格的な戦闘が始まる前に、地域住民は避難することが多いのだが、今回のモスルでは、住民にとっての避難経路がなく、住民も直接戦闘に巻き込まれる状態となっている。それどころか、モスルから逃れてきた住民によると、逃げようとする住民をISのスナイパーが撃つという。
筆者は定期的に医療指導で北イラクを訪問しており、今回のモスル奪還作戦における負傷者の実態に接し、日本の医療人にも役立つ点があると感じ、本稿を記す。
2003年のイラク戦争後、イラクは北部のクルド人地域、中部のスンニ派アラブ人地域、南部のシーア派アラブ人地域の3地域の連邦国家構想ができあがったが、クルド人地域だけがクルディスタン地方政府(KRG)として成立、スンニ派およびシーア派アラブ人地域の連邦制はまだ存在していない。
2016年の夏頃から、モスルに通じるISの補給路には、東はペシュメルガと呼ばれるKRG兵士、北はシリア北部のクルド人民兵YPG、西はイランの支援を受けたシーア派民兵、南からイラク正規軍が進軍していった(図1)。最も激しい戦いは東で戦うペシュメルガの地域であったため、当初、負傷者の多くはペシュメルガであった。
そのモスルに通じる東部街道をペシュメルガが制圧したあと、モスル市内突入は米国主導でイラク正規軍のみの行動となり、現在の負傷兵はほとんどがイラク正規軍である。
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