こうの史代による同名の漫画をアニメ化した映画。片渕須直監督・脚本(MAPPA制作、東京テアトル配給、2016年公開)
私のいる教授室の真向かいの「医局受付」、時折にぎやかな笑い声が聞こえてくるその部屋には、秘書さんがいて、温かなお湯やドリップコーヒーが備わり、診療を終えたスタッフや実験の合間に一息つく大学院生たちが集う。診療では難治な患者がおり、研究ではそうやすやすと思うような結果がでない、厳しい仕事の合間にほっとできる場。コーヒー片手に語られる各々の、時々の一曲、一冊、一作に耳を傾けあう。
2016年の一作。助教のJ君が熱く勧めるのはアニメ映画『この世界の片隅に』であった。ぶっきらぼうな話ぶりのJ君はしかし心優しく、「J先生があんなに勧める映画ならば」、とまず秘書さんたちが観にゆき、これがまた涙ぐみながら「本当によかった」と話す。『シン・ゴジラ』『君の名は。』と大ヒット映画のあった2016年に、『この世界の片隅に』は大きな宣伝もされず、日本の片隅で静かに上映された作品である。
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