(東京都 M)
浮腫(edema)は,リンパ系を介する生体代償機能が最大に働いてもなお,組織間隙(interstitial space)に過剰な水分が貯溜した状態です。局所の腫脹あるいは体重増加という臨床徴候を示し,底部に骨組織のある生体部分(前額部あるいは脛骨前面)を指で圧迫すると,その圧痕が数秒間残存する症候を呈します1)。
この組織間隙は内部環境(internal environment)とも呼ばれ,細胞の機能維持に必要不可欠の環境であり,この恒常性(homeostasis)を維持することが,生命維持そのものであり,この部位の機能の喪失は生命の死(特に肺浮腫や脳浮腫)につながります2)。
この組織間隙の栄養物や代謝産物を含んだ水分容積は,以下の三者のつり合いによって規定されています(スターリングの仮説)3)。
① 毛細血管内と組織間隙の静水圧差と膠質浸透圧(アルブミン濃度に対応する)差で決定される組織液の供給・回収系のバランス
② リンパ系や静脈系を介する組織液の回収系の働き
③ 組織間隙表面を覆う皮膚組織の硬さ(「コンプライアンス=容積変化/圧力変化」で定義される)
こうした生理的な制御様式の破綻から組織間隙に過剰な水分が貯溜される原因を漏れなく整理したものが表1です。
ご質問の「疾患によって浮腫の出現に部位差のある理由」を説明するためには,浮腫のメカニズムのほかに,静脈やリンパ系など低圧循環系の特徴,すなわち重力の影響を受けやすい事実と,循環血流量は臓器によって著しい部位差のあること(皮膚の血液循環量は顔が最大である)を知って頂く必要があります。
残り784文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する