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(4)社会的ジェットラグが雌性生殖機能に及ぼす影響[特集:「社会的ジェットラグ」が健康に及ぼす影響]

No.4863 (2017年07月08日発行) P.48

中村孝博 (明治大学農学部動物生理学研究室准教授)

高須奈々 (長崎大学大学院医歯薬学総合研究科加齢口腔生理学分野客員研究員)

中村 渉 (長崎大学大学院医歯薬学総合研究科加齢口腔生理学分野教授)

登録日: 2017-07-07

最終更新日: 2017-07-05

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  • 体内時計機能が変異した時計遺伝子(Cry)欠損マウスは,早期に性周期不整や不妊症状を示す

    早期不妊症状は,体内時計の固有周期と環境明暗サイクルの周期を調和させることで劇的に改善する

    野生型早期加齢マウスにおいても,人工的な社会的ジェットラグによって性周期不整が引き起こされる

    加齢による性周期不整・不妊などの生殖機能の変化は,概日リズム(サーカディアンリズム)に強く依存することから,体内時計の加齢変化を考慮した「サーカディアンタイミング戦略」による不妊症改善が期待される

    1. 社会的ジェットラグが不妊の一因となりうる

    わが国に限らず世界中で初産年齢の高齢化傾向が起こり1),不妊症の原因となる性周期不整の発症基盤の解明が急務となっている。女性生殖機能において「視床下部-下垂体-性腺系(hypothalamo-pituitary-gonadal axis:HPG軸)」が性周期と排卵タイミングの制御を担い,一連のHPG軸の機能発現には,概日時計中枢である視床下部・視交叉上核(suprachiasmatic nucleus:SCN)の時刻情報(タイミングシグナル)が必須である2)3)。SCNは約2万個の神経細胞で構成され,その細胞内に一群の時計遺伝子の転写翻訳フィードバックループを備え,約24時間のリズムを発現する4)。時計遺伝子ノックアウトマウスでは雌性の生殖機能の低下が報告されていることから,概日リズムが雌性の生殖機能に作用することが明らかである5)~7)

    現代社会において,我々は様々な社会的制約の中で1日を基本単位として生活を送っている。最も支配的な社会的要因は「始業開始時刻」であり,それに間に合わせるために時間を逆算して起床時刻を定め,1日の活動を開始する。さらに,「翌日のスタートに支障をきたさぬよう」就寝時刻を決定し,1日の活動を終了するよう努める。一方,社会的制約から解放される「週末」は何かと就寝時刻,起床時刻に遅れをきたすことが起こりがちである。5日間の「平日」と2日間の「週末」という社会的スケジュールの中で,生活時間帯にずれが生じることが社会的ジェットラグ(social jetlag)の本態であると言える。

    最近筆者らは,時計遺伝子(Cry)欠損マウスが早期加齢期に性周期不整や不妊を発症する中で,その個体が持つ特有の体内時計振動周期と環境周期を一致させることにより劇的に改善が認められることを見出した。さらに,「平日」と「週末」をシミュレートした社会的ジェットラグ条件において,野生型マウスにおいても性周期不整を呈することを見出している。

    本稿では,概日リズムと性周期という異なる生体リズム現象の相互作用と,加齢によるタイミングシグナルの低下について論じる。

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